「ピッコロさん」
僕が彼の名を呼ぶと、ぎくりとしたのか彼の肩がぴくりと動いた。
「何だ」
本当は動揺しているのだろうに、あくまで冷静であろうとするピッコロさんが愛らしい。

「僕のこと、どう思います?」
「どうとは…」

ああもう、本当に罪なお人だ。
本当は僕の欲している言葉なんてとうの昔に分っているくせに。

床にへたり込み、足腰に力が入らないのを何とかしようと手首に力をこめて何とか立とうともがいているピッコロさんを視界に入れながら、僕は彼ににじり寄る。
ピッコロさんは今の状態にあくせくしているようで、まだ僕が近づいていることに気付いていないみたいだ。だから、僕は僕の存在に気付いて欲しくて彼の名を呼んだ。ねえ、ピッコロさんと。甘く熱情を含んだ彼の名は、呼ぶだけで僕の身体を熱くさせる。
僕が名前を呼んだ事により、やっと僕を見てくれたピッコロさんは、先程よりもぎくりとした表情で僕を見た。そんなピッコロさんに、僕は四つん這いになり更ににじり寄る。きっと、ピッコロさんからしてみればいささかホラーな光景なのかもしれない。


「悟、飯…、寄る、な」
「どうして?」

にじり寄る僕、床を這うピッコロさん、
何とも滑稽な状況じゃあないか。だって、僕はピッコロさんより背も低いし体格だって彼の方が勝ってる。そんな彼に、僕は、今、恐怖を植え付けているのだから。

「今の俺は、変、だ、だから…っ、」
「変なんかじゃないです、とっても、綺麗ですよ」

僕がそういうと、ピッコロさんは面食らったような顔をして僕を見つめた。
綺麗の意味を捉え損ねたのだろうか、それとも変では無いと否定したことだろうか、どちらにしても理解が出来なかったのなら今一度教えてあげなければならない。

「ピッコロさんは、変じゃないし、とても、とても、綺麗、です」

きっと僕の言い方が早かったのだろうから、今度は分りやすいように、一言一言区切って、彼に伝えてあげる。

「、っ、?」

あれ? また理解できなかったのかな?じゃあどう伝えればいいんだろう。困ったな…。ピッコロさんは変でも無いし綺麗なのだから、これ以上の言葉もこれ以下の言葉も思いつかない。

「お、俺が、綺麗、だと…?」

なんだ、理解出来てるんじゃないか。びっくりしましたよ、ピッコロさんてばもう。

「ええ、ええ、貴方はとても綺麗です。」
「馬鹿か貴様、は…っ、とにかく、おまえは外に行って風にでも当たってこい」
「馬鹿だなんて酷いなぁ…けど、分りました。ピッコロさんがそう仰るなら僕は一時外でデンデとお茶することにします。後でまた来ますね」

ピッコロさんは「ああ」と短く一言言うと、また俯いてしまった。
僕はそんな彼を見ながら、それじゃと言って厚い扉をぱたんと閉めた。


それにしても、身体の異変に気付きながら水のせいにするんだから僕は本当に愛されたものだと思う。
ピッコロさんの部屋にはピッコロさん以外には僕一人だけしかいなくて、僕のために用意してくれたお茶は、ピッコロさんが最近デンデに習って覚えたのだと嬉々と煎れてくれたものだ。つまりピッコロさんの分の水は、ピッコロさん自身が用意したことになる。したがって彼の水には僕だけしか細工することは出来ないはずだということはピッコロさんがようく分っているはず。しかもだ、ピッコロさんは一回、僕が貸して欲しい本があるのだと言ったらわざわざ取りに行ってくれたので席をたっている。ということはその時に僕が何かしら水に細工をしたのでは無いかということぐらい誰でも思いつく。だのにピッコロさんってば微塵も僕を疑おうとはしなかったのだから僕は彼に心底愛されていると自負さぜるを得ないのだ。

「本当に、可愛い人なんだから」

僕は一人、ほくそ笑んだ。
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