「恋愛感情?」


怪訝な表情で首を傾げ、ピッコロは悟飯を見遣った。
それに構わず、悟飯は「はい」といつもの調子で答える。

「俺には恋愛感情というものが元から存在しないと前にも話したろう。
 流石の俺でも、それだけは教えてやることのできない質問だ。」



― ピッコロさんの好きな相手は誰なんです?


事は悟飯のこの一言から始まった。
セルを倒し、少しばかりの平和が訪れた地球の片隅。
母に内緒で修行をつけてもらうことが日課となった毎日は、悟飯の唯一心休まる時間である。

小休憩を挟もうとなり、水分を取るピッコロの首筋に光る水と汗の滴りをあられもない瞳で見つめる。
悟飯にとってそれも、欠かせない日課となっていた。

こくりと小さく嚥下する首筋は、齧り付いてと誘っているのかと思うほどに艶めかしく見える。
もうそろそろ年頃になる悟飯の股間を熱くさせるには十分すぎる材料だった。


― ああおいしそう、だなあ。―


無意識に自分の喉も一つ鳴る。
視線は首筋から口許へ。そしてちらりと見える血色の良くなさそうな青っぽい舌先へと移る。
どくりどくりと煩く頭に鼓動が鳴り響き、そろそろ自身の欲を制御することが叶わなくなってきそうになっている。

どうしてこんなに綺麗で可愛くてかっこよくて…好きになっちゃったんだろ……
はあと気付かれないようにため息をついても、事態がいい方向に変わってくれるはずもなく。
そして自分の無謀な感情が消え去ってくれるわけでもない。

ならばいっそ、この想いを伝えてそういう仲になってしまえばと思ってしまうほどに。


もういっそ楽になりたい――。




「お前は優しく強い。
 お前が好いた女なら、きっと相手もその気持ちを分かってくれるだろう。」

お、俺にはよくわからんが…
そう付け足すと、少しだけ申し訳なげな表情を見せるピッコロにますます強い想いが沸いて出てくる。

― ああ、もう…誰かたすけて… ―

心の中で誰に言うでもなく頭を抱えかけたその時。
はて。と、悟飯の頭の中に過ぎるものがあった。

相手もきっとわかってくれる…、と、言ったよね?
何とも都合の良い方向に考える己の脳味噌にアホかと突っ込みを入れたい気持ちをぐと堪え、悟飯はいささか無謀な考えに至る。


「つまり、その人に僕の想いを素直に伝えれば、想いは通じるってことですか?」

白々しくもピッコロに尋ねる。
悟飯の邪な考えなぞ微塵も疑うことなく、ピッコロは優しく微笑む。

「ああ。お前は良い男だ、俺が保証してやる。」

頭を優しくポンポンとされ、悟飯はニィと口角を上げた。


「本当ですね? …言いましたからね、ピッコロさん」
「? あ、ああ…?」

俺は何か間違ったことを言っただろうかと小首を傾げるピッコロに、悟飯はずいと顔を近づける。

「なら、ピッコロさん。
 僕と真剣にお付き合いをしてください。」




しばし見つめ合う時間が訪れる。
ようやく言っていることを理解したピッコロは、悟飯の頭をペシリと殴った。ちょっと強めに。

「ば、ばか! 俺じゃないだろう!」
「ばかだなんて酷い。僕は、確かにあなたに告白したんですよ。」

至極真剣に、さも当たり前のごとく。
悟飯の真っ直ぐな黒い瞳に、ピッコロはうぐと言葉を詰める。

どうしたらといった表情。
いつになく困り顔をするピッコロに、悟飯は辛抱たまらんと尚も距離を詰めていく。


「ちょ、ちょっと待て悟飯…っ、おまえ俺を練習台にでもしてるつもりか?」
「何てことを。一等真剣で真面目にお伝えしている僕に対してそんな態度、とても酷いと思いませんか?」

疑問を疑問で返し、ピッコロを確実に追い詰めていく。
じりじりとにじり寄り、座禅も崩れ足の間に挟まった悟飯の未熟だけど屈強な身体を押し戻せずピッコロの焦りはいよいよ大袈裟になる。


「な、なにか、勘違い…しているぞ、悟飯。」
「なにも? 何故僕が勘違いをしているなんて思うんです? ピッコロさんが勝手に、そう思い込みたいだけじゃ?」
「そんな、こと」
「ピッコロさんに告白しているのは僕なのに、その気持ちを良い様に変えようとしないでください。
 僕だって、何度も何度も何回も、いっっつも、あなたの為をおもってこの気持ちを伝えようとしないよう努力しましたし、この気持ちがただの思い違いなんじゃないかと幾度疑ったことか。」

でも――、
悟飯は口早に続ける。

「どうあがいても、本物だった。」
「っ――!」

息を詰め、必死に視線を逸らそうとするピッコロを許さない悟飯の指が、首筋を伝い顎をグッと掴んだ。

「っ、ご、ごはん‥?」
「ピッコロさんは言いましたね。 必死で想いを伝えれば、それは相手にも伝わると。」
「そ、れは――ッ」

有無を言わさんとする悟飯の指に強い力が込められる。

「ッ・・・!」
「僕のきもち、受け取ってください。」


鋭い八重歯を舌で撫ぜられ、まだ幼さを残る身体が覆いかぶさると。
息もさせてくれないほどに、重く圧し掛かる想いと共に長身の身体が地面に沈んだ。





うそにしないで
ぼくはあなたを離さないと決めました。

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