透き通る様な銀色の髪を、細く女らしい指がすると撫ぜる。
さら、と重力に従い落ちると、その髪の主は小さく頬を上げた。


「シア様」

低く重圧のある声が背から掛けられる。

「何かしら」

鏡越しに目線をそちらへ向け、低い声に応える。

「シア様に、お目通りをと言う人物が。」
「…通しなさい。」
「入れ。」

こくりと頷き、訪れた人物に一言告げると、低い声の男は姿を消した。
代わりに、肌の黒い女が表れる。


「これはこれは、随分と珍しい客人だこと。……ミドナ」

シアは皮肉たっぷりといった感じで顔をそちらに向け、ニヤリと笑んだ。

「…シア」

鋭く、射抜かれてしまいそうな眼光で、ミドナはシアを見つめる。



「よいのかしら、こんな敵地に来てしまって。貴方の王子さまがさぞ心配することでなくて?」
「軽口は良い。……シア、私はおまえに交渉しに来たのだ。」

ぴくり、とシアは眉を顰める。
その動きは微々たるものだったが、ミドナには心情の変化がありありと分かった。

「交渉とは。」

目を細くしたシアが、ミドナに問いかける。

「もうこの様な事はやめないか。私には分かっているんだ…。おまえが、本当は――、」
「ミドナ」

それ以上言うなと言いたげな瞳で、シアはミドナを見つめる。

「貴方も、闇の世界といえど一国の姫。…自分の意志ではどうにもならない事があるというのを、嫌という程分かっているでしょう?」
「おまえはいつもそうだ。闇の世界に来た時だって…――。」
「ミドナ、」
「哀しい瞳をしながら、何故おまえは自分を押し殺す? 本当は、魔王の言いなりになどなりたくないはず。本当のおまえは―。」
「やめてちょうだい」

ミドナの言い分を遮ると、シアは俯く。
震える肩を、ミドナは辛い想いで見つめた。

「ミドナ、女ってものは本当に……愚かな生き物よ。」
「…どういう、」
「女は――…惚れた男のために命を捧げられる程…愚かな、生物。」
「――っ、おまえ…!」
「ごめんなさい。帰ってちょうだい、…お願いよ。」

ミドナはそれ以上口を割る事が出来なかった。
『お願い』など。この女が己に懇願するとは、そう思うと同時に、シアの想いを悟ったのだった。



「私は貴方を殺さなければならない。でもそれは、今では無いの。」
「……シア」


苦しい程の熱い想いを抱える事の罪の深さは、自分にも分かる。

殺さなければならないのは、お互い様だと。心の中でそう呟いて、ミドナはその場を去った。









*****

かつては酒を交わすほどの間柄だった設定。
シアを救いたいミドナと、魔王様を裏切れないシアさん。

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