夢に溺れて死んだ男

※少し流血表現あり




漆黒の兵装に包まれている筈のこの身に直接刃を感じた時、嗚呼、俺は漸く二人しか居ないこの戦場で、彼奴との永きに渡る戦いは終わるのだと理解した。
ぐらり、と傾く身体を支えられず、俺が背中から地面へ倒れ込むのと、奴がその剣を投げ此方に手を伸ばしたのは同時だったと思う。
どぷり、と右肩から流れ出る己の血液が目に入り、こんな時に思うことではないのかもしれないが、自分はちゃんと血が通っていたのか、と安心した。そして傷口に手を伸ばそうと、何時もより重たく感じる腕を動かした時、自分の手を握る温かさを感じた。それと、頬に伝う微かな水分。
引き寄せられる様に顔を正面に動かせば、先程まで戦っていた相手、ブラスター・ブレードが俺の手を握り、顔を覗き込んでいた。


「触れては駄目だ、今止血する」
「、何故、泣いて、いる」

言葉を発すれば、ごぼ、と、空気と一緒に胸の奥から液体がせり上がってきて思わず咳き込んだ。其れを見た奴は一段と顔を歪めて涙を流した。


「すまない、ダーク」


何を謝ると云うのだろうか。争えばどちらかが勝利し、敗北するのは当たり前だろうに。そして、敗北したのは俺の方だと云うのに。(──本当は、最初から、勝てることなど無いのだと解っていた。彼奴は俺と違い、選ばれた者なのだから。)


「私が、君をこんな風にしてしまった」


びり、と奴は自分の兵装の下に着ていたボディスーツを裂き、俺の傷口を圧迫止血しながら囁いた。だが広範囲に広がる傷口は血流を止めない。どうせ無駄だろう、と呟いても奴は聞かない。


「っ、何が英雄、だ。友一人救えない、理解してやれなかった者に、英雄等と謳われる資格も、価値も、何も無いではないか…!」
「、」
「こんな私は、要らない…!」


(そうか、それが、お前の、本当のこころか、ブラスター・ブレード。)
本当に争いが嫌いで、人を傷付けるのが嫌で、でも周りの期待に応えるべく心を磨り減らしながら戦い、不安と焦燥、哀しみに駆られているのに、それをひた隠ししなければならない環境のせいで、殆んど現れることの無かった本心。

(嗚呼、それだ、)


「…おれは、お前が羨ましかった。憎かった。唯一の名を受け継いだお前が、騎士王に寵愛されたお前が。」
「…ああ」
「だが、俺は多分欲しかっただけだ」
「欲しかっ、た?私の名、か?」
「違う。そんなものは要らない。俺が欲しかったのは、英雄の名でもなく、騎士王の愛でもない。今、お前が要らないと言った、そのお前が欲しかった。」


奴は驚愕の表情を浮かべ、握り締めていた手を緩めた。それを見計らって俺は自分のてのひらをブラスター・ブレードの頬へと滑らせた。もう感覚も動きも鈍ってしまっているが、奴の体温は感じることができ、少し安心た。何せ、もう少しなのだから。自分の先ぐらいもう見えている。だからもう少し、持ちこたえるだけでいい。必死に触れた頬は未だに湿ってはいるが、涙は止まっていた。良かった、もう泣いていないか。残りの雫を指で拭ってやりながら、俺は、今までの俺という人間の全てを生を伝えるため、思いの丈を込めた言葉を発する。


「でも、お前の全ては騎士王の物。ユナイテッド・サンクチュアリの民の物。俺だけの物にはならない。ならいっそ、俺はお前の傷になりたかった。」
「私の、傷」
「そして、それは叶った。俺はお前の本心を垣間見、そして深い傷となった。俺は、今の為に生きていたのだ、ブラスター・ブレード。」


愛の言葉なんかより、もっともっと刻まれる、命を懸けた愛の形であり、欲望が入り混ざった激しく苦しい求愛。


「俺は、お前が、好きだったんだ」
「…私だって、君を…!」



夢に溺れて
死んだ男

(嗚呼、俺は、これが欲しかった!)



そして、彼の付けた傷は、痛みと共に強さを引き連れてきたのだ。





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ユニット企画「惑星」様に提出したものです。
ぐだぐだ長ったらしい物になりました…でもダクブレ好きなんで楽しかったです◎
気持ちマジェスティさんになる時ぐらいで

とても素敵な企画に参加させていただき、本当にありがとうございました!

コール/20120202


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