企画 | ナノ

 今日は駅前のショッピングモールにでも寄ろうかなとぼんやり考えていると、こういう日に限って友達に捕まってしまった。何でも最近彼氏が出来たのだけれど全然デートに誘ってくれないとか何とかかんとか……ただの愚痴である。私は大人しく聞き流すことにし、うんうんと適当に相槌を打つ。こういうタイプは大人しく聞いておけばいいのだと母が言っていたが、その通りだと思う。案の定、彼女は言いたい事を全部言えてすっきりしたのか、じゃあね〜と上機嫌で去っていった。「あんたも早く彼氏作ったら?」最後の一言には乾いた笑いしか出なかったが。
 そんなこんなで帰ろうと思ってから約一時間後、やっと帰れると思ったところで「よっ」と声を掛けられた。
「高尾くん」廊下からひょっこり顔を出す友人に、私は驚いた。「あれ、部活は?」

「今日はミーティングだけだったんだよ」
「じゃあ今から帰り?」
「そ。んで、真ちゃん待ち」

 今自主練してんだよ、と体育館の方を指す高尾くん。真面目だよなぁと笑う彼に釣られて笑みが零れた。高尾くんは適当な椅子に座ると、私も座るように促す。あ、これはまた帰る時間が遅くなるなぁと直感的に思った。けれど断るわけにもいかないので大人しく向いの席に腰を下ろす。

「で、プレゼント決まった?」

 ああ、やっぱりその話題か……。私は項垂れた。何だか毎日その話題に触れている気がする。半ばうんざりした気持ちで「まだ決まってない」と答えると、予想通り高尾くんは「まじ?」と目を丸くした。

「もう二日しかないぜ?」
「わ、わかってるよ……」

 自然と語尾が弱くなってしまう。けれど仕方ないだろう、今日は七月五日。本当に時間がないのに、私は未だ彼へのプレゼントを決めかねているのだ。緑間くんに中途半端なものをあげたくはない。けれど考えても考えても彼が喜びそうな物は何一つとして浮かばない。悪循環だ。

「そうだ!」高尾くんは閃いたように手を打った。「もうこの際あの手でいくか」
「あの手?」私は首を傾げた。

「プレゼントはア・タ・シ作戦」
「ブフゥ!」

 しなを作って裏声を出す高尾くんの衝撃発言に私は盛大に吹き出した。飲み物を含んでいたら間違いなく高尾くんにぶっ掛けていただろう。汚ねーなーと引く高尾くんにちょっと殺意が芽生えた。高尾くんはさらに容赦なく追い討ちをかける。

「てゆーか苗字ちゃん、真ちゃんのこと好きなんでしょ? 告っちまえば?」
「ゲボォ!」

 何かもう吹き出すというより吐きそうになってしまった。「ななな何故それを」冷や汗やら羞恥やらで身体がガクガクと震える。高尾くんは呆れたように溜息を一つ吐いた。「見てたら誰でもわかるって」つか気付かれてないって思ってたほうがびっくりだわ〜とか言われる始末だ。マジかよ皆気付いてたのかよ。

「もももももしかして緑間くん……」
「あ、大丈夫大丈夫、真ちゃんは超鈍感だから気付いてねーって」

 手を振りながら否定してくれる高尾くんに、幾ばくかほっと安堵する。これで本人にまでバレていたら私は恥ずかしさのあまり顔から火を噴いて死ねると思う。よかったと安心する私をじーっと見つめ、高尾くんは何を考えたかこう言い放った。「俺のこと真ちゃんだと思って告白してみねぇ?」

「は!?」
「練習だって。今のままの苗字ちゃんじゃ、絶対告白どころの騒ぎじゃねーだろ? な?」

 何が「な?」だ。当然の如く私は無理だと拒否したが、高尾くんは一歩も引いてくれない。挙句の果てに真ちゃんのためだと、彼にしては珍しく真剣な表情で言われてしまい、とうとう私が折れた。わかったしますよ、ええしますとも。投げやりだなと高尾くんに苦笑されたが、誰のせいだ。
 告白と言っても、実は私、生まれてこの方告白というものを経験したことがない。だから何て言えばいいのかわからず、助けを請うように高尾くんを見るが、彼は黙って私の言葉を待っている。助言はくれなさそうだ。私は意を決して、深呼吸をした。

「……す、すき、です」

 練習とはいえ、異性に好きだと言うのは初めてだった。自分でもわかるぐらい顔が熱いので、高尾くんから見た私はそれはもう酷い顔だろう。そう思ったらさらに恥ずかしさがこみ上げてくる。高尾くんは無言で何も言ってくれないし、そこまで私の顔は酷いのか――もう耐えられなかった。

「わ、私! 帰る!」

 勢いよく立ち上がったので椅子がガタンと大きな音を立てる。鞄を引っつかんで教室の扉へ行くまで机やら椅子に何度も躓いてしまい、ガタガタとうるさい。背後から高尾くんの「苗字、」と焦ったような声が聞こえたが、立ち止まれそうになかった。高尾くんの顔をまともに見れる自信がなかったのだ。
「わぶっ」教室を飛び出てすぐ壁にぶつかった。壁というよりも暖かく、硬いが柔らかい。何だと顔を上げれば、難しそうな顔で仁王立ちしてた緑間くんだった。

「ごごごごごめんなさい!」

 慌てたように距離を取れば、緑間くんはくいっと眼鏡を上げた。「別にいい」と素っ気無い一言を残し、緑間くんは私の横を通り過ぎて教室内へ入っていった。どうやら高尾くんを呼びに来たのだろう。私は二人が出てくる前に逃げるように廊下を走った。ああ、もう、どうしてこんなに心臓がどきどきしているのだろう。こんなの買い物どころではない。高尾くんのばか、と一人悪態を吐いた。




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