企画 | ナノ

「あれ、苗字さん」

 無性にマジバーガーのシェイクが飲みたくなり、学校帰りに寄ったところ中学時代の友人とばったり出くわした。「黒子くん!」彼と私は図書委員で、その関係でクラスは違ったがよく話すようになったのだ。さらに黒子くんの前には大量のマジバーガーを頬張る大柄の男の子と、きらきら光る金髪のイケメンが。「と、黄瀬くんまで」

「明らかに俺黒子っちのついでだったスよね!?」
「黒子くん、隣いい?」
「どうぞ」

「無視!?」黄瀬くんは涙目になったが、黒子くんは一切黄瀬くんを見ずに「お久しぶりです」と挨拶をした。私はそれを返しながらも、目の前に座る男の子が珍しそうに視線を送ってくるので何だかむずがゆい。

「彼は僕のチームメイトの火神くんです」私達の様子に気付いた黒子くんが紹介してくれた。かがみくん、と呼ばれた男の子は咀嚼していたマジバーガーを飲み込み、「火神大我だ」と名乗った。私もそれに倣い、「苗字名前です」頭を下げた。

「つーか火神っちと名前っちって初対面だったんスか?」いつの間にか復活した黄瀬くんが私と火神くんを交互に見遣る。

「私は何度か見かけたことはあったよ。ほら、試合で」
「試合?」

 ああ、と納得する黒子くんと黄瀬くんとは裏腹に、火神くんは不思議そうに首を傾げた。あ、そういえば一度家に帰って着替えて来たので、今は私服だった。

「私、秀徳なんだよ」
「秀徳……って、緑間のか!?」

 頷くと、火神くんは苦虫を噛み潰したような顔をした。どうかしたのかと問えば、黒子くんが「火神くんと緑間くんは仲が悪いのです」と説明してくれた。試合で何かあったのかな、と思ったがあまり突っ込むと面倒なことになりそうだったので、私は曖昧に頷く。

「あ、そういえば」

 場の雰囲気を変えるように、黄瀬くんが口を開いた。「もうすぐ緑間っちの誕生日っスよね?」火神くんの眉間に皺が寄った。えええ黄瀬くんその話題のチョイスはどうなの。

「そうでしたっけ……。黄瀬くんよく覚えてますね」
「黒子っち冷たっ! 緑間っちとは誕生日近いし、七夕だしで覚えてたんスよ〜」
「あ、そういえば言い忘れてたけど黄瀬くん誕生日おめでとうございました」
「今更!?」

 名前っち忘れてたんスねと泣かれるが、黒子くんも火神くんも素知らぬ様子でシェイクを啜ったりハンバーガーを食ったりしている。忘れてたのは申し訳ないと思うが、私だけではないだろう。私以外にも最低二人は忘れていそうだ。

「苗字さんは、緑間くんに何かプレゼントをするんですか?」

 黒子くんが真っ直ぐな瞳で今私が触れて欲しくないことをズバリ尋ねてきた。興味を引かれたのか火神くんと黄瀬くんも私を凝視する。「え、ええと〜……」無意識にシェイクに突き刺さっているストローを弄っていると、三人は「まさか」と表情を変えた。

「まだ決まってないんスか?」

「…………はい」黄瀬くんの一言に、観念したように頷く。黒子くんと黄瀬くんは何故だか気の毒そうな顔をしているのに対し、唯一火神くんだけが「別にプレゼントなんて何でもいいんじゃねえの」と言い放った。

「何言ってるんスか火神っち、誕生日プレゼントって特別なんスよ! それが好きなふがごごぐ」
「黄瀬くんちょっと自重してください」

 急に反論し始めた黄瀬くんに、黒子くんがいきなりハンバーガーを口に詰めた。というより押し込んだ。ハンバーガーの持ち主である火神くんは「俺の……!」と言い掛けたが、黒子くんの得も言われぬオーラに閉口している。何だろう、この光景は。

「緑間くんでしたら、苗字さんの選んだプレゼントなら何でも喜んでくれますよ」

 珍しく口元に微笑みを浮かべる黒子くんに、無性に泣きそうになった。うう、なんて優しいんだろう……。脳裏に中学時代仲の良かったスタイルの良い美人な友達が過ぎる。きっと彼女はこういうところに惚れたのだろう、と一人で納得した。ようやくハンバーガーを食べ終わった黄瀬くんも「そうっスよ!」と力強く同意する。「気持ちが大事なんス!俺もこの前の誕生日、持ちきれないぐらいプレゼント貰ったっスけど量より質っスよ!」

 その場にいた全員から黄瀬死ねと罵詈雑言を浴びせられたのは、言うまでもない。


 私が帰った後、黒子くんと黄瀬くんが「これで距離が縮まればいいですね」なんて話していたことや、火神くんがそういうことかと納得していたことなんて、知る由もなかった。




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