企画 | ナノ

 帰宅部である私は、放課後は暇なので図書室に寄ることにした。借りていた本を返却し、その後本棚から二、三冊物色して空いている席に座る。そういえば課題出されてたっけ、とついでなので図書室で終わらせて行くことにした。勉強に疲れたら本を読み、たまに背伸びをしたり、そしてまた勉強に取り組む。真面目に思われるかもしれないが、私はきちんと予習復習しなければ授業についていけないのだ。それに、静かな室内でシャーペンを走らせる音やページを捲る音が私は好きだった。
「苗字さん」司書の先生から声を掛けられた。「そろそろ鍵閉めようと思うんだけど……」

「あ、すみません。帰ります」慌てて私は鞄に教科書やらを詰めた。乱雑なそれを見て、先生は苦笑した。「急がなくていいよ」と窘められ私は頬に熱が集まるのを感じた。先程手に取った本の中から一冊選び、それを借りることにする。読書は好きなのだ。

「うおー、結構時間経ってたなぁ……」

 校門を出て空を見上げれば、空はまだ明るい。だが携帯で時間を確認すれば、七時時過ぎだ。急いで帰らなければ、夜ご飯に間に合わない。走ろうかなぁ、と考えていると背後から声を掛けられた。「苗字か?」

「え、あ、緑間くん」振り返れば良く知った顔があった。何だかんだで小学校から同じ彼とは幼馴染と言っていいのか腐れ縁と言えばいいのか微妙である。

「今帰りか」
「うん。緑間くんは部活終わり?」

「ああ」彼はテーピングを巻かれた指で眼鏡を掛け直した。暗い夜道で、白いテーピングだけがぼんやりと浮かんでいるだ。家の方向が同じということもあって、何となく一緒に帰る流れになった。私と緑間くんはぽつぽつ世間話……というより一方的に私が喋っていた気もするが、私は不意に笑いがこみ上げてきた。
「どうしたのだよ」私に気付いたのか、緑間くんは不審そうに尋ねてきた。

「緑間くんとこうして帰るのっていつ以来かなって思ったら、何か笑えてきた」

 くすくす笑う私とは裏腹に、緑間くんは相変わらずの仏頂面で「ああ」と小さく頷いた。小学生の頃はよく一緒に帰ったけれど、年を重ねるにつれ徐々に回数は少なくなっていった。中学校にもなれば、お互い別の部活に入っていたので、一緒に帰るということは全く無かったと思う。
 ふと私は気付いた。あれ、これ緑間くんの欲しい物を聞くチャンスじゃないか……?

「あ、あのさ!」

 突然声を張り上げた私に、緑間くんはちょっとびっくりしたように「なんなのだよ」と私を見た。

「緑間くんって何か欲しい物とかってある?」

 言った直後、私は猛烈に後悔をした。ド直球すぎるだろ自分。「え、ええとね、友達が誕生日近くて参考までに聞けたらなって」慌てて弁明するも、墓穴を掘るだけだった。馬鹿か自分。

「……俺ので参考になるのか?」
「うんうんもちろん!」

 緑間くんが鈍感で助かった。彼は顎に手を当てて暫く考え込み、私はその横顔を見て睫毛長いなぁ、とか指長いなぁ、とか考え酷く恥ずかしい気分になってしまった。な、何を考えてるのだよわたし……! うっかり緑間くんの口癖がうつってしまった。内心頭を抱える私に気付く素振りも見せず、緑間くんは言った。「無いな」

「えっ」
「無い、と言ったのだよ」
「い、いや一つくらいは……」
「無い」

 彼曰く、必要なものは全て持っているそうだ。人事を尽くして〜とか何とか難しいことを言っていたが、私の耳には入ってこなかった。きっと緑間くんがいなかったらその場で膝をついてしまっていただろう。ああ、どうしよう。緑間くんの誕生日まであと四日なのに、全くプレゼントが浮かばない。

「何をぼさっとしている。さっさと行かないと置いていくのだよ」
「うぇあ、ごめん!」

 何だ今の声は、って緑間くんがちょっと笑った。その顔があまりにも綺麗で、格好良くて、私の心臓はきゅーって締め付けられた。結局緑間くんの欲しい物はわからなかったけど、うん、一緒に帰れたので良しとする。




20120703⇒back

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -