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 あれは、小学校に入ったばかりのことだ。引っ込み思案だった私はあまりクラスに馴染めず、よく一人で本を読んでばかりいた。何となく占いの本を読んでいたとき、同じクラスの男の子がいきなり私に話しかけてきた。「占いが好きなのか」

「えっ」話かけられると思ってなかった私は、どう返事をしたものかと口をもごつかせた。眼鏡をかけた男の子はちょっと苛立ったように「好きなのかときいているのだよ」と追い詰めるように言った。どうしよう怒ってる、幼い私には男の子がとても恐ろしく見えた。

「ご、ごめ……」

 目の前がぼんやりしてきた。男の子はぎょっとした様子で「な、なぜ泣くのだよ」と慌てている。それがさらに涙腺を刺激し、情けなくもぼろぼろと泣き出してしまった。遠くから「あー、真太郎くんが名前ちゃん泣かしたー」と囃し立てる。男の子、真太郎くんは耐え切れなくなり私の手を引いて教室を飛び出た。きゃあきゃあ騒ぐ教室を尻目に、どんどん歩いて行く真太郎くん。私はどうしよう怒られるのかなと不安になった。

「名前」
「ぇう、ひっく、ごめん……」
「べつに、あやまらなくてもいいのだよ」

 真太郎くんはポケットからハンカチを取り出し、ぐしゃぐしゃになった私の顔を拭いてくれた。少し乱暴だったので鼻の頭が真っ赤になってしまったが、泣き止んだ私に真太郎くんはホッとしたように息を吐いた。

「やっと泣きやんだな」

 零すように柔らかく微笑んだ彼に、幼い心臓は激しくときめいた。




「名前ー、さっさと起きなさーい」

「ハッ」母の声に私は重たい瞼を開けた。涎を拭いながらのっそりと起き上がる。何だかとても懐かしい夢を見た気がするが、あまりよく覚えていない。
 一階に下りると、母が律儀にも私の分の朝食を用意してくれている。日曜なのにありがたいことだ。もそもそ食パンを齧ると、ふとカレンダーが目に入る。そういえば、今日から七月だ。カレンダーはまだ六月のもので、私はビリリと丁寧に破り捨てた。

「あ」七月七日の日付が目に付いた。七月七日、七夕――そして、彼の誕生日。
 彼、というのは、小学校からの付き合いがある緑間真太郎くんのことである。小学校の頃は同じくらいだった身長もあっという間に差がついてしまい、今では見上げなければならない程だ。付き合いも長いので、毎年ちょっとしたプレゼントをしているのだが……今年はちょっと、がんばってみようかなぁ。



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