企画 | ナノ

 今日は部活がテスト週間のため、休みだ。かといって勉強する気にもなれず、俺はご飯食べてお菓子食べてベッドでごろごろと惰眠を貪っていた。至福のひと時である。だが、トテトテと軽い足取りで階段を駆け上がってくる音に、俺の幸せな時間は終わった。

「あっくーん!」

 ばぁん、と効果音がつきそうな勢いで登場した名前は、走ってきたせいかほっぺが真っ赤だ。ベッドの上から首だけを動かして名前に「また来たの」と呟く。名前は赤いランドセルを放り投げるように下ろすと、俺のベッドに飛び乗ってきた。正確にいうと俺の上に、だけど。

「ぐえー」
「あっくん、きょうはやいですね!」
「部活ないからねー」

 俺の腹の上に跨り、きゃっきゃと笑う名前の脇に両手を差し入れ持ち上げる。「はなしてください!」と暴れられたのですぐ横に下ろしてやった。でもまた跨ろうとしてきたので、俺は名前と向かい合うように胡坐をかく。名前は軽いが、お腹いっぱいな状態で腹の上で暴れられると、さすがに苦しいのだ。

「あっくんママがいってました。『あつしはテストなのに、ぜんぜんおべんきょうしないのよね〜』と!」

 身振り手振りで説明する名前は、どうやら俺の母親の真似をしてるらしかった。よく見たら口の周りにチョコがくっついていたので、俺の部屋に来る前に会ったらしい。その際に何かお菓子を貰ったのだろうと適当にあたりをつけ、指でぐいぐい拭ってやる。ほっぺたがすごいぷよぷよで触っててきもちよかった。

「名前、なに食べたの」
「ど、どうしてわかったの!」
「チョコついてるしー」

 指で拭ってやったチョコをぺろ、と舐めてやれば、名前は秘密がバレたようにハッと口元を押さえた。黒目がちな目がきょときょと動いている。何かあやしい、と顔を覗き込めばこっちくんなとばかりに押し返された。名前のくせに生意気である。

「なーんか、隠してるでしょー」
「かくしてないもん」
「ちゃんと俺の目見て」
「う、うぅ……べ、べつにあっくんのおかしをたべたわけじゃ……」

「え」俺は目を見開いた。「俺の食べちゃったの」
 しまった! と名前は口を押さえたが、時既に遅し。そういや、リビングに昨日買ってきたチョコレートのお菓子を置きっぱなしにしてたっけ。明日食べようと思って忘れてたやつだ。母さんは名前にめちゃくちゃ甘いから、きっとよかれと思って名前にあげたんだろう。俺のなのに。

「だ、だってあっくんママがたべていーよって……」
「俺はいーよって言ってませんー。よし、捻り潰す」

 きゃー! 悲鳴をあげて逃げようとする名前を、すかさず手を回した。そして足の裏やら脇の下に手を差し込み、こちょこちょとくすぐってやる。名前はきゃあきゃあと悲鳴をあげるが、その顔は楽しそうな笑顔だ。
「もうしません! もうしません!」名前は笑いすぎてちょっと涙目になってるので、俺はいい加減手を離してあげた。ぜえぜえと息を整える名前の、乱れた髪の毛を撫でてやると、くすぐったそうに頭を振られた。簡単につかめそうな、ちっちゃい頭だ。

「あっくん、チョコたべちゃってごめんね」
「ん、いーよ。また買ってくるし」

 ベッドにごろんと横になれば、名前も隣にころんと転がった。欠伸をすると、「あっくんおねむ?」と尋ねてくる名前もつられて欠伸をした。慌てて口を両手で押さえたけど、もうばっちり見ちゃった。名前の背中をぽんぽん叩いてあげると、途端にうとうと船をこぎだした。重そうな瞼をこすり、俺のほうへ腕を伸ばすので壊さないように優しく抱きしめてやる。あったかい名前に、俺も本格的に眠くなってきてしまう。風邪を引かないように毛布を手繰り寄せ、二人で包まると「あっくん」名前が小さく俺の名前を呼んだ。

「あのね、おっきくなったらね……わたし、あっくんにおかし、いーっぱい……つくって……」

 後半はもにょもにょ言ってて何言ってるかわかんなかった。けど、何となく言いたいことはわかったので、早く寝ろとばかりに頭を撫でてやる。名前は幸せそうにへにゃっと笑った。
 ――その日、夢を見た。パティシエの格好をした名前が、俺以上もあるケーキを作ってくれるて、それで作ったケーキを半分こにして、名前と一緒に食べる夢。あーあ、正夢になんないかなあ。

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