企画 | ナノ

 ずびび、と不細工な音にお菓子を食べる手を止めると、鼻を真っ赤にした名前ちんと目が合った。鼻水垂れてるよ、と教えてあげれば「知ってるわばか」とずびずび鼻を啜った。あらら、と首を傾げるとティッシュが無い、と不機嫌に答えられる。そりゃあ大変だ。面倒くさかったけど、名前ちんのために別室からティッシュを持ってくる。もちろん鼻セレブだ。

「あ、敦くんがこんないいティッシュを持ってるなんて……!」
「どういう意味〜?」

 何故だか感激した様子の名前ちんは、献上品を受け取るように鼻セレブを拝受すると、人目も憚らず勢いよく鼻をかんだ。俺、一応彼氏なんだけど。それって彼女として、むしろ女としてどうなの名前ちん。でも、「ありがとう、すっきりした」鼻を真っ赤にしてにこにこする名前ちんが可愛かったので、まあいっか。俺は中途半端に食べていたまいう棒を一口で食べた。

「名前ちん、風邪でも引いたの? 俺にうつさないでね」
「違うよ! ていうか酷いな!」
「うそうそ、ごめ〜ん」

 心配してるんだよ、と頭を撫でようとすると避けられる。ちょっとショックを受けてると、名前ちんは憮然とした表情で言った。「ベタベタな手で触らないで」
 自分の掌を確認すると、指先はお菓子のカスでぬるぬると光っていた。ぺろ、舐めてみるとしょっぱい。無言で名前ちんに手を差し出すと、呆れたように溜息を吐かれた。しょうがないなぁ、と言いたげな表情で鞄からウエットティッシュを取り出す名前ちん。それで俺の汚れた指を丁寧に拭ってくれるのだ。名前ちんのこういう、やさしくて、気が利くところが好き。前に室ちんに名前ちんのいいところを教えてあげたら、「まるで名前はアツシの保護者だな」と言われた。意味がわからない。俺と名前ちんはコイビト同士なのに。思い出したらイライラしてきた。名前ちんは何か察したように、「どうしたの?」と指を拭いながら小首を傾げた。

「なんでもねーし。……ん、ありがと」
「どういたしぶえっくしょん」

 寸でのところで名前ちんが横を向いたので、目の前でくしゃみを受けることにはならなかった。けれど、名前ちんの鼻からたら〜っと鼻水が垂れている。あらら。傍らにあったティッシュをすぐさま抜き取ると、名前ちんの鼻を拭いてやった。俺はいつも名前ちんに世話を焼かれる側なのだが、今日はなんか俺がお世話してる。なんだか嬉しくなって、名前ちんの顔を伺うと彼女は顔を覆ってうずくまってしまった。あらら、なんで?

「名前ちーん、どうしたの」

 丸くて小さい背中を撫でてやると、「う、ううう……」と腕の隙間から変なうめき声が聞こえた。もしやどこか痛いのかと心配になり、名前ちんの脇に手を入れて無理矢理上半身を起こす。抵抗されたが、俺にとっては痛くも痒くも無い力だ。「どっかいたい? くるしい?」

「ち、ちが……違くて……」

 名前ちんの顔は可哀想なぐらい真っ赤だった。本当に風邪を引いたのか、熱を測るべくおでこをくっつけると、そんなに熱くもない。むしろほっぺたのほうが熱そうだ。
「まさか、敦くんに鼻水拭かれる日がくるなんて……」名前ちんは尚も顔を真っ赤にしてぶつぶつ言っている。どうやら俺に鼻水を拭われたのが恥ずかしかったようだ。散々俺の前で鼻かんでたのに。名前ちんの羞恥ポイントがよくわからない。名前ちんは俺からのそのそ離れて、ベッドの上に放られてあった俺のパーカーを頭から被った。ちっちゃい名前ちんが俺の服を着ると、当たり前だが袖も裾もダボダボだ。俺にぴったりなパーカーも、名前ちんが着るとすっぽり収まってなんかかわいい。たまらず後ろからぎゅうと抱きしめてしまった。抱きしめた名前ちんの体は、ぽかぽか暖かい。
「あったかーい」とさらにぎゅうぎゅう抱きしめると、名前ちんはくすぐったいと笑った。

「あ、鼻水はつけないでね」
「敦くんぶっとばす」

 口では物騒なこと言ってるけど、名前ちんの耳は真っ赤だった。おいしそうだったのでかぷっと噛み付いたら、「ぎゃあ!」と悲鳴を上げた名前ちんの後頭部が俺の鼻にクリーンヒットした。勢いが強すぎたのか、鼻血は出なかったものの、俺の鼻は名前ちんと同じぐらい真っ赤になってしまった。あ、お揃いだ。こんなことで嬉しくなってしまう俺は、相当末期なのかもしれない。

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