dream | ナノ





※雷蔵が変態






 私には現在、好きな人がいる。忍者の三禁とかそんなもの知らん。だって恋する乙女は誰にだって、あのギンギンうるさい会計委員長にだって止められないんだから!

 そして好きな人というのは、同学年の忍たまである五年ろ組の不破雷蔵くんである。雷蔵くんに恋した切欠は先日の合同授業だった。忍たまとくのたまがペアを組み、与えられた課題を協力してクリアするという表向きは簡単なものだが、実際はかなりハードであった。私と雷蔵くんはとある密書を盗むという課題だったのだが、私のミスにより敵に見つかり絶体絶命のピンチに陥った。

「ご、ごめん、不破くん……」
「大丈夫、気にしないで」

 雷蔵くんはそう言って優しく微笑むと、私を責めることなくあっという間に敵を薙ぎ倒してしまった。実を言うと早すぎて何をしたのかよくわからなかったのだが、まあ、そこは察してほしい。ちなみに私に語彙力というものはない。とにもかくにも、私はあの優しい笑みに心臓を打ち抜かれたのだった。



 それから私の図書室通いは始まった。普段本なんて全く読まないが、雷蔵くんが図書委員だというならば話は別だ。奇怪なものを見るような目をした同級生など無視である。

「苗字さん、こんにちは」

 図書室の扉を開けば私に気付いた雷蔵くんがにこっと笑って挨拶をしてくれる。「こ、こんにちわっ」変に声が裏返ってしまったが、雷蔵くんはそれに気付いていないようで、一年生の子達に何やら指示を出していた。ああ、雷蔵くん今日も超かっこいい……。うっとりと本棚の影から見つめていると、不意に背後に気配を感じた。驚いて振り返ると、そこには雷蔵くん――じゃない、鉢屋くんが立っていた。

「な、なに」
「…………」

 鉢屋くんは私の視線の先にいる雷蔵くんと、そして私を交互にじろじろと観察するように見た。すごくジト目だ。

「ちょっと、そんなにジロジロ見ないでよ」
「……なるほどな」

 それだけ呟くと鉢屋くんは納得したように頷き、踵を返した。意味不明な行動に、私は首を傾げる。なるほどって何のことだ。いや、それよりも雷蔵くんである。あんな雷蔵くんの顔をしているだけの変装野朗は忘れよう。

 くるりと振り返ると雷蔵くんと目があった。え、と目を丸くすると、雷蔵くんはハッとしたように視線を逸らした。え、え、え、なにその反応。もしかして私を見てた……? も、もしやこれは! 火がついたように顔が赤くなるのがわかった。

「あの」
「へ、ハイッ!?」

 両手で頬を抑えてうずくまっていると、つんつんと服を引っ張られた。顔を上げれば一年生の子……この顔に縦線入っているのは怪士丸くん、だっけ? その子が心配そうに私を覗き込んでいた。「どこか具合でも悪いんですか……?」

「えっああ、えと、これは違うのごめんね」
「でも、お顔が赤いです……」

 熱でもあるんですかと首を傾げる怪士丸くんがとても可愛かったが、私はこれ以上心配させるのも可哀想なので「元気だから大丈夫だよ!」と言って図書室から逃げるように立ち去った。中在家先輩の視線が怖かったというのもある。雷蔵くんから呼び出されたのは、それから三日後のことだった。



「苗字さん、わざわざ呼び出してごめんね」

人の来ない裏庭に呼び出された私の心臓は、もう、今にも破裂しそうだった。だってこれアレだろ? 完璧なシチュエーションじゃねーの……。ごくりと生唾を飲み込み、平静を装ってううんと首を横に振る。

「実は、苗字さんに頼みたいことがあって」

 予想していた言葉と違い、私は出鼻を挫かれた気持ちだった。「なに?」と聞き返せば雷蔵くんは意を決したような、真剣な表情で私を真っ直ぐに見つめた。え、も、もしかして……?

「ここからあそこまで走ってくれない?」

「は?」口をポカンと開けてしまい、不思議に思いつつも雷蔵くんに言われた通りに走ると、「もっと本気で!」と怒られてしまった。あ、あれ……私の知っ

てる雷蔵くんと違う……。だが怖かったので言うとおりに、短距離だけれど出来るだけ本気で走った。なんだか雷蔵くんの熱烈な視線を感じる。「あ、あの、走ったけど……」そこまで言いかけて、私は雷蔵くんの息が荒いことに気付いた。何だか頬も紅潮している。エッ、と息を呑む私を尻目に、雷蔵はがしっと私の両肩を掴んだ。

「やっぱり素晴らしいよ、君とあの日初めて会ったときからそうなんじゃないかって思ってたんだけど、今確信した苗字さんの大きすぎず小さすぎずそう、掌にすっぽりと収まりそうなサイズ! それでいて走るときにたわわに揺れる胸、ああ完璧だよ、君は肌も白いしきっと綺麗な」

 右ストレートで強制的に黙らせたのは、正当防衛だと思う。





惚れた腫れたで引き寄せて
20120516⇒
back




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -