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 最近、よく巻島くんの携帯が鳴っている。

 その度に持ち主である巻島くんはそれはもう嫌そうな、ていうか面倒くさそうな顔をするのだが、律儀にも毎回ちゃんと電話に出る彼は立派だ。通話ボタンを押すと、離れた場所からでも聞こえるぐらいの大音量。それだけで巻島くんの電話の相手がわかった。またあの人だ。

『どーだい巻ちゃん調子はいいかい!』
「うるさいショ」

 コミュニケーション力が低い巻島くん相手にここまでハイテンションに話せるのは私が知るかぎり一人しかいない。自然と頭に浮かんだ顔に、人知れず溜め息が零れた。


***


「誰だ? 俺のファンか!?」

 多分第一声はこんな感じだったと思う。巻島くん今度大会出るんだってー? 応援行くよー、別に来なくていいっショ、いやいや巻島くんの勇姿を目に焼き付けとこうと思って、単に暇なだけだロ、なぜバレたし。こんな会話を経て、実際暇だった私はノコノコ大会に彼を応援に来たのだ。初めて見るロードレースというのは新鮮で、その迫力に圧倒されつつも目が離せなかった。惜しくも僅差で負けてしまった巻島くんを慰めに行こうと思い、私は表彰が終わるまで待っていた。それがいけなかった。

「え、いや、違います」

 つーか誰だよ。言葉に出さずとも態度に出てたのか、カチューシャをつけた男の子は驚愕したように目を見開いた。

「オレを知らないのか!? ハコガクの東堂尽八を!?」
「す、すいません……」

 なんだか厄介なことに巻き込まれてしまった。助けを求めるように巻島くんを見つめると、巻島くんは面倒くさそうに溜め息を吐いた。学校に置いてあるグラビア全部燃やしてやろうかてめぇクソ玉虫野郎、と私が静かに怒りを燃やしているとカチューシャくんはハッと息を呑んだ。

「ま、まさか……巻ちゃんの彼女、」
「違うから」
「違うショ」

 うお、巻島くんとハモってしまった。つーかそんなに私と恋人同士だと見られるのが嫌かそーかそーかよし燃やす。

「そうかそれを聞いて安心した! オレは箱根学園の東堂尽八、山神と呼ばれ“眠れる森の美形”と呼ばれる男だ。ハコガク一の美形と覚えておけ!」

 突っ込み所が多すぎて私は変にどもってしまった。わかったな、と念を押されたので適当に頷いておいたが。
 つーか巻島見てねぇで助けろよ、と再び巻島くんを見ると、その場には誰もいなかった。さらに周りを見ればみんな帰宅ムードで大会の人も後片付けを始めている。え、なんで私知らん人と二人っきりで喋ってんだよ超逃げたい。
 元から人見知りな私は今更になって初対面の男子と、しかもよく見ればイケメンな奴と面と向かっている状況に冷や汗が出てきた。心臓もバクバクいっている。

「えええとあの、わ、私そろそろ帰っ」
「ああもうそんな時間か。ん? 巻ちゃんどこ行った?」

 今更かよ遅いな!
 だが私はチャンスとばかりにカチューシャくんがキョロキョロしてる隙に逃亡を謀った。だが一瞬で肩を掴まれ、「ひょぃぃ」と情けない悲鳴を上げてしまった。

「そういえば名前を聞いてなかったな」
「苗字、なまえです……」

 カチューシャくんはそうかなまえちゃんかと白い歯を見せて笑った。え、なんで名前呼び?

「ここで会ったのも何かの縁だ。そうだ、メアドと番号教えてくれないか?」
「え、嫌です」

 そのときのカチューシャくんの顔は、驚愕の一言では済まないような、何とも形容し難い表情だった。


***


「苗字ー、東堂がお前のメアド教えてって」
「嫌です」
「嫌だってさ」

 なんでだ! 巻島くんの携帯からカチューシャくんの声が聞こえる。そう、あれから何故か彼は巻島くんを通して私のメアドをゲットしようとしているのだ。

『おい巻ちゃんちょっとなまえちゃんと代わってくれ』
「苗字ー、東堂が電話代われって」
「嫌です」
「嫌だってさ」
『だからなんでだ!』

 ギャアギャア騒ぐ東堂くんに、とうとう巻島くんは耳から携帯を離した。私はその姿に笑いが込み上げてきたが、咳払いで誤魔化すと「じゃあまた明日ー」と席を立った。巻島くんがあ、と口を開く間もなく教室の扉を閉める。


「……東堂、なんであんなドS女に惚れたっショ……」
『ん? 何か言ったかい巻ちゃん!』

 教室ではこんな会話があったらしいが、如何せん私はにやける顔を抑えるのに必死だったので知る由もない。






気になるあの娘
20120417⇒
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