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 君に好きだと伝えられたら、どんなに楽だろう。


 ちらりと横を見れば、案の定というか何というか、彼は人目を憚らずぐうぐう眠っていた。最近全く授業に出てこない十代を引っ張ってきた結果がこれだ。ああ、先生の視線が痛い。
「十代、十代」小声で名前を呼びつつ肘で小突いても起きる気配はなかった。おい、私が迎えに行ったときも寝ていたくせにどんだけ寝る気だ。反対側に座る翔くんは苦笑し、万丈目は苛立ったように鼻を鳴らした。
「十代なぞ放っておけ。貴様まで卒業出来なくなるぞ」
「私はみんなで卒業したいの」
 万丈目がさらに口を開こうとしたとき、教壇から咳払いが聞こえた。まずい、と私達は姿勢を正す。私と万丈目は先生から睨まれ、チャイムが鳴るまで二回も当てられる羽目になった。


「十代の所為よ」
「はぁ?」なんだよ、いきなり。十代は大きく伸びをした。
「私達、もう三年生よ」
「そうだな」
「卒業なんてすぐよ」
「ああ」
「みんな進路が決まって、夢を見つけて進もうとしているのよ」
 私だって――と言い掛け、その後に続く言葉が浮かばずに私は口を噤んだ。十代はそんな私を一瞥しただけで、レッド寮へ戻るべく歩き出した。私もそれに続く。
「十代は、どうするの」
「さぁな」
 その一言で、私は一気に頭に血が上った。
「何よそれ! プロになりたいとか、そういう理由でデュエルアカデミアへ来たんでしょう!? デュエルが好きだから、デュエルに関係した仕事につきたいとか……十代には夢がないの!?」
「なまえには」
 唐突に名前を呼ばれ、どきりとした。
「あるのか。夢が」
 立ち止まった十代が、真っ直ぐな瞳で私を見つめた。全てを見透かすような眼。私はこの眼が嫌いだった。何を考えているかわからないから? いいえ、十代をとても遠くに感じるからよ。
「ある、わ」不自然に言葉が途切れた。「プロのデュエリストになるのが、ずっと、夢だったから」
「そうか」
 十代は薄く笑って、私の頭をぽんと撫でた。「お前ならプロになれるさ」
 両親や先生達から飽きる程言われた応援の言葉なのに、不思議と十代に言われると視界がぼやけた。


 本当はね、もう一つ夢があるの。女の子なら誰もが願う夢。
 大好きな人と結婚出来ますように――でもね、どうしてだろうね。私はこの夢が叶わないことを知っていたの。


「十代、好きよ」
 とうとう目から大粒の涙が零れてしまった。涙はとめどなく溢れてくる。十代はそんな私を抱き締めてくれた。私が泣き止むまで、ずっと。






遠ざかる世界にさよなら
20110716⇒
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