0528
思えば私はいつも誰かを困らせてばかりだった。
走るとすぐ転ぶし、料理を作れば指は傷だらけになり、裁縫なんてもってのほか。見かねたクロウに「じっとしてろ!」と怒られることもしばしばある。でも何かしたいのよ、みんなのために何かしたいの。そう告げるとみんなは優しいから、ちょっとだけ困ったように笑った。アキは「あなたはそのままでいいのよ」って頭を撫でてくれた。
そのたびに胸のあたりがきゅうって苦しくなって、私は耐え切れずガレージを飛び出してしまう。いつも転ぶくせに、こんなときだけ早く早く走れるの。誰にも見つからないように逃げるのは得意だった。
走って走って、足が千切れそうなぐらい走って。鼠がいそうな路地裏に入り込んで荒い息を殺すために両手で口を覆う。耐え切れずその場に座り込むと、ずっと我慢してた何かがぶわっとものすごい勢いで私を飲み込む。その波に飲み込まれると、ばかみたいに目から大粒の涙が滝のように流れ出した。
デュエルのルールなんてわからない。コンピューターだって扱えない。運動も、頭も悪い。家事もできない。私、何もできない。こんなんじゃまた捨てられる。
そう思うと涙は止まらなかった。止める気もなかった。みんなの前で無様に泣くよりも、誰にも見られない場所で枯れるぐらいに泣いてしまったほうがいい。いっそ枯れてしまえ。
「ああよかった、やっと見つけた」
なのに、彼はいつもこうして私を見つけてしまう。
「やっぱり、一人で泣いていたんだね」
「ぶるー、の」涙でぐずぐずになった声に、ブルーノはちょっとだけ笑った。そうして手を差し伸べてこう言った。「一人で泣かないで。泣きたいときはボクの所に来てくれればいいのに」
私は首を横に振った。そこまでブルーノに甘えるのが怖かった。ブルーノはわざとらしく肩を竦める。「来てくれれば、わざわざ探す手間も省けるのに」
だったら来なければいいのに、と思う反面、ブルーノに愛想を吐かされたのではと心臓が痛む。ブルーノは「ごめん、いじわるだったね」と私の頭をそっと撫でた。
「いっぱい泣いて、そうしたら一緒に帰ろう。みんな心配してるから」
みんな君のことが大好きだよ。
ブルーノの言葉は魔法みたくすっと私の胸に溶けて暖かくしてくれた。うん、と頷いた声は涙声だったけれど、私の顔には確かに笑みが広がっていた。