小ネタ置き場 | ナノ
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 何故でしょうね。薄い唇から紡がれた言葉は、白い吐息と共に霧散した。
 なんでだろうね。綺礼な横顔をじいっと見つめながら相槌をうった。同じように息が白くなるが、不思議なことに、私は黒子くんの吐息がとても美しいと感じた。

「君は阿呆です」
「はい」
「救いようのない馬鹿です」
「返す言葉もございません」

 ふと、指先に暖かな温もりが触れた。視線を落とせば、黒子くんの繊細な手が私の指先を握り締めていた。雪のように真っ白な手は少しかさついていて、見た目とは裏腹に掌は熱いぐらいだ。何故でしょうね、黒子くんは反芻するように呟いた。

「何度も忠告したはずです。彼には好きな人がいると」
「うん」
「最初から振られるとわかってたでしょう」
「うん」

 諌めるような、怒ってるような、よくわからない声だった。なんだかいたたまれない気持ちになり、私はさらに視線を俯かせる。使い古した茶色のローファーがぼやけた。

「好きだったの」

 黒子くんの手が、さらに強く私の指先を握った。深く息を吐き出して「知ってます」と低い声で唸るような彼は今、どんな表情を浮かべているのだろう。
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