大きなお皿に控えめに乗せられたアルデンテのパスタ。アサリとトマトの少し塩辛そうなソースで絡められたそれを、フォークでくるくるとからめとる。
口に運ぶと、予想通りの味。高級店の味。
ちらりと前を見ると同じようにパスタを食べる土方さん。そのバックには高層ビルならではの、いわゆる、超絶景。
私の視線に気づいた土方さんは不思議そうな顔を見せる。
「おいしいね」
「おう」
「連れてきてくれてありがと」
「あぁ」
実は1ヶ月ぶりのデートだとか、そんなことどうでもいいのか、はたまたその事にすら気づいてないのか。
どちらにせよ、二人の雰囲気が決して良いものではないことはわかる。
ずっと逢いたかったのに、話したい事はたくさんあったのに、この口はなぜか言うことを聞かない。
「最近なんかあったか」
「特には」
「そうか」
前から薄々感じていた事。土方さんはもう私に興味なんてないんじゃないか。
1ヶ月も好きな人と連絡を取らないなんて、ありえない。普通に考えて。
電話だって、メールだって、私からした事はあっても向こうから来たことはない。
付き合いたての頃によくみた、照れた顔も、少し笑った顔も、もうすっかりみていない。
そっか、そういうことか
いままで気がつかなかった。きっと、別れ話のタイミングを伺っているから無言なんだ。
ワイングラスについた水滴が静かにテーブルに落ちた。そのときだ、
「なまえ、俺、なまえに謝らないといけない事がある」
いつになく真剣な表情。別れを決め込んだ顔ってこんな顔なのかな。
「最近、ずっと電話もメールも無視した」
「うん」
「逢いたく、なるから」
「……へ」
自体がまったく読み込めず、先程と変わらない真剣な顔に戸惑う。
「なまえは俺の事嫌いになってるかもしれねぇ」
「そ、そんなことな」
「これからも寂しい思いさせるかもしれねぇし、嫌われるようなことするかもしれねぇ。」
「え、何ほんととつぜ」
「だけど俺、お前の事、好きだ」
土方さんは左手を静かに前に差し出した。
「絶対幸せにする。だから俺と、」
彼の手の平に収まる小さな宝石が、きらりと光った。
私、幸せになります。
20110502