簡単な事で良かった。
何も、抱えきれない程の花束を渡して愛を囁くだとか、毎日のように甘い言葉をかけるだとか、そんな事を望んでいる訳じゃない。
もちろん今でも、贅沢な事をしているのは分かってる。
真選組だなんて休日の無い組織に勤める私たち二人が、たまにだけどデートだって出来ている。道を歩く時にさりげなく道路側を歩いてくれたり、河原で育つ小さな花に足を止めたり、そんな事だけでもう充分幸せなのも事実。
それでも、言葉が無いのは不安で。でも嫌われるのが怖くてそんな事は今までずっと言えなかった。
「あ……」
そんな時、神楽ちゃんと総悟が一緒歩いているところを見掛けてしまった。それはもう、カップルみたいだった。総悟は珍しく頬を染めてそっぽなんて向いてるし、神楽ちゃんは楽しそう。あんな二人の顔初めてみた。
多分、心のどこかではずっと前から思ってた。
総悟は本当は私の事なんて好きじゃない。
「……と、いう訳です」
「ああ、はいはい」
誰に相談すればいいのか分からなくて銀さんに話してみたものの、この反応。
「もうちょっと何かないの?」
「ねぇよ。帰れ」
意味分かんない!
なんでそんなに冷たくあしらわれなきゃならないのか……最初からあてにすれのが間違ってた。
「……帰るわ」
「おう。今すぐ帰って総一郎くんのとこ行きなさい」
なぜ今の話を聞いて総悟のところに行かなきゃならないのかなんて分かんないけど、どうせ銀さんの事だから適当言ったんだろう。
「全く、おたくら本当似た者同士な」
溜息混じりに呟かれたその言葉の意味はやっぱり分かんなかったけど、それには返事をしないで、おじゃましましたとだけ呟いて万事屋を出た。
屯所に帰り、憂鬱な気分のまま自室に戻ると、総悟がむすっとした顔であぐらをかいてこちらを見上げていた。
可愛い……、じゃ、なくて。
「どうしたの、こんなとこで」
「なまえこそ、今日はどこ行ってたんですかィ?」
よく分からないけど、総悟の機嫌がすこぶる悪い事だけはひしひしと伝わってくる。
「ぎ…銀さんとこ、」
「浮気ですねィ」
何なんだこいつ!
自分は浮気しといて人がちょっと出掛けただけで文句言うなんて!
「今日はなまえの…」
総悟はそんな事を小さく呟いた後、大きなため息をつきながら立ち上がって私の前へ来た。真っ正面から向き合うと、総悟はまた小さく息を吐いた。
「誕生日おめでとう」
ずいっと渡された細長い箱。ピンクのリボンで可愛くラッピングがされている。
「これ……」
「開けろよ」
ラッピングを丁寧にほどいて中をみてみると、ハートの形に赤い宝石?がついたネックレスが入っていた。
「髪、もちなせぇ」
言われるままに箱を左手て持ったまま右手で髪を持ち上げると、総悟は箱からネックレスを取り出して私につけた。
「チャイナに、選んでもらった」
「え?」
「先週。」
「じゃあ…楽しそうにデートしてた訳じゃ…ないの?」
「俺が浮気するとでも思ってんですかィ?」
総悟は少し寂しそうな顔をした後、小さな声で呟いた。
「なまえ、好きだ。」
ほんとのキモチ
(私も好きだよ、)