3Z



なんで夏休みに補講なんて受けなきゃいけないんだ
なんでこの教室は冷房が効いてないんだ
なんでアイスのひとつも出ないんだ


「あああああああ」
「なんでィ、うるせぇな」
「暑い」


あついあついあついあつい。なんで日本の夏はこんなにも暑いんだろう。
成績が悪かったから補習、なら一歩譲って許そう。なんで授業が進まなくて授業数が足りないからって夏休みにわざわざ来なくちゃいけないんだ。そんなの銀八のせいじゃねーかよ。
夏休み前最後の日、総悟と神楽がそれはもう教室中をも巻き込む大喧嘩をした。おかげで教室の隅でただじっとしてただけの愛しのエアコンは永眠。物を壊すほどの大喧嘩をするふたりだけど、それでもってお互いの事を想いあってるからうらやましい。
わたしは突っ伏した顔を左へ向けてトシの方を見た。ワイシャツ姿の彼は今日もかっこいい。読みかけた本があったのか、肘をついて読書にふけっている。

わたしとトシが付き合い始めたのはもう半年も前のこと。トシは口数も多くないし、思っていることをくちでぺらぺらと話すタイプでもない。そりゃあ半年の間で、デートだってしたし、それなりに話もしたし、ちゅーだってしたけど、総悟と神楽みたいに、意思をぶつけあって喧嘩、なんてしたことない。というかそもそも、意思をぶつけてない気がする。そんな事を考えていると、わたしの視線に気がついたのか、トシがこっちを向いた。


「どうした、?」
「えっ」
「いや、こっち見てるから」


つっぷしているわたしと、肘をついているトシ。私たちの視線が絡み合う。別に私もトシも、べたべたするような恋愛が好きでない、というよりもむしろ苦手なタイプだから、今まであまり気にとめていなかったけど、ちゃんと目を見て話すのも実は久しぶりなのかもしれない。


「なんか……久しぶり、だね」
「お、おう」


別にこの間も一緒に帰ったし、全然久しぶりなんて事ないけれど、わたしのくちから出たのはこの言葉だった。一方トシは、なにか言いたそうに少し困ったような顔をしていた。


「とし、」
「あ?」
「あのさ」
「おう」
「好き」


私は体を突っ伏したままそう言った。久しぶりにトシの顔をまっすぐ見たら、急に好きって言いたくなったから。トシはすこし目をそらして顔をほんのり赤くしていて、まだ私の事好きでいてくれてるんだなって、すこし安心した。


「あのよ、」
「なあに?」
「俺、言葉足らずかもしれねえけど」


トシの目は、また真っすぐに私の目を見ていた。


「俺、なまえのこと、すげー好きだから」


はは、そっか。そういう私の顔は、さぞ真っ赤だった事だろう。




20120803



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