すー、とかすかに扉を引く音がして、ふとそちらに視線を向けると、そこにあの人がいた。今朝、大きな仕事をするためにと士気を纏って出て行った彼は、今は安堵と疲労でいっぱいの何とも言えない表情をしていた。隊服は少し汚れているから、多分帰ってきてそのまま此処に来たのだろう。無事帰って来てくれた嬉しさと一番に私のところへ来てくれた嬉しさとで、私は思わず立ち上がった。
「おかえ」
私が言おうとした言葉は、土方さんに前からぎゅっとされたせいで、最後まで言えなかった。
いつもは強気な土方さんが、今日はあまりにも弱々しく私を抱きしめるから、私は不安でいっぱいになった。何かあったのかなとか、怪我してるのかなとか、私のネガティブな妄想は止まらない。
「……疲れた」
土方さんはそう小さく呟いた。私の肩の上にある顔から土方さんの息遣いを感じて、なんだかちょっと恥ずかしい。
「お疲れ様」
「……おう」
「おかえり」
「……ただいま」
いつもの威勢なんて想像もつかないほど土方さんはぐったりしていて、手を離せば、壊れてしまいそうだった。
急に恐怖を感じた私は、土方さんをぎゅっと抱きしめ返す。すると、片手で私の頭を撫でながら、もう片方の手で私を抱きしめ返してくれた。
いつもなら「今日は素直だな」だとか嫌味を吐いてにやりと笑うところだろうけど、そんな元気もないみたい。
「もう寝るでしょ?」
「あぁ」
「布団、敷いてあるからそこで寝ていいよ」
「…に、」
「え?」
「…一緒に、寝てくれねェか」
そういうと土方さんは、上着を脱いで側に放ると、私を抱きしめたまま布団に倒れこんだ。
すると、すぐに小さな寝息が聞こえてきて、いつものとは違う穏やかな顔を見て少し頬が緩んだ。
真選組だなんて大きな組織をまとめて、引っ張って、いつも頑張ってる土方さんが、唯一気を緩ませる瞬間を、私だけが見られるなんてなんだか嬉しい。
こんなにくたくたになるまで疲れて帰ってきてるのに、私のところに来てくれたとか、布団にはちゃんと私が寝るスペースを空けてくれているだとか、そんなことを考えていると、無性にこの人が、愛おしくなった。
私は土方さんの頬に手を添えた。
「だいすき。おやすみ」
「ん……」
君の寝顔とわたし
(目が覚めたら、今度は起きてるあなたに言うね)