「みょうじなまえです。よろしくお願いします」
私は深く頭を下げた。
頭を上げると口を開けてあんぐりとする真選組の局長と副長…らしき人。
「お前……女か?」
目つきの悪い方が私に問い掛けた。いわゆる、怪訝な顔をしながら。
「はい」
私がそう答えると、その人は表情を変えないまままた口を開いた。
「俺らは本気でやってんだ。ここは女のくる所じゃねぇ」
「女は駄目なんてどこにも書いてませんでした」
そう、今日は真選組の新入隊士の面接日。
私の攘夷への思いは、いつしか真選組へ入る事へと変わっていた。それは、攘夷と戦う真選組の姿に惚れたから。
「てめぇ、なめてんのか」
「ま、まあ、トシ!落ち着け!」
やっぱり女を認めない目つき悪男……とそれを制するごりらっぽい人。
「えーっと……なまえちゃん、だったかな?」
「はい」
「とりあえず君は、実技審査を見て決める事にするよ。それでいいか、トシ」
「……あぁ」
やっぱり納得はしてないみたいだけど、なんとか了承は得たから、実技審査は見てもらえるみたい。
私も伊達に剣道をやっていない。最近は試合なんてしてないから分からないけど、そこら辺の男に負けるわけない。
志が違うんだ、志が!
実技審査は、二人一組で剣道の試合をするらしい。
私の相手はかなり図体がデカい男。
しかもこいつ、私をみて笑いやがった!
む、むかつく……なめんじゃねえ!
「はじめっ!」
審判の声と共に試合が始まる。ヤツはうっすら笑ってやがる…!
多分試合を読むのは簡単。こういう人は単細胞だから。
だけどこの日の私はいつもと違った。
なぜか相手の動きがスローモーションみたいにゆっくりで、でも私の体はいつもの倍以上の早さで動いて、本当にびっくりするほど簡単に勝てた。
あっけなく試合が終わり、周りを見渡すと、真選組の隊士、そして審査の参加者までもが物珍しそうな顔をしていた。
「君、あの人誰か知ってる?」
「え?」
私の一組前の人に話しかけられた。
「あの人、こないだの試合の成人男性の部の全国1位の人だよ」
びっくり。
だって、失礼だけどすっごく弱かったから。
無事全組の試合が終わり、私はまたさっきとおなじ面接室に呼ばれた。
たったひとつの机を挟んで、ふたりと向き合う。
「さっきはすまなかったね。言い忘れていたが、俺が真選組の局長の近藤だ。こっちが副長の土方。……で」
「はい?」
「君が今回、入隊を希望した理由は何かな」
そんなの、決まってる。
「攘夷が嫌いだからです」
「攘夷……が?」
「私は攘夷志士を許しません、絶対に」
近藤さんはそうか、と呟いてにこりと笑った。
優しい目で笑う人。
「トシ、いいだろう?」
「…………あぁ」
土方さんは舌打ちをした後答えた。
「みょうじなまえちゃん、合格」
「!はいっ!」
合格、つまり真選組に入れるという事。
ずっと抱いていた夢に一歩近づけた嬉しさで、私からは笑みがこぼれた。
「遊びじゃねぇんだぞ」
「、はい!」
「死ぬ覚悟決めて死ぬ気でやれよ」
「はい!」
土方さんは私の事認めてないみたい。
それでもいい
これから認めさせてやりましょうよ!
「じゃあ、これからちょっと色々説明するから、とりあえずこっちおいで」
「はいっ」
面接の際の開きすぎた距離を埋める私の足取りは、軽かった。