丁度一階から二階へと繋がってきている階段の前で、二人と落ち合う。
向こうの二人もフルギ達と同じような考えをしているのか、疑うような縋る様な、そんな目をしていた。

「あの、貴方たちも…?誘拐、されて?」

未だ涙ぐむ女性と、その隣で少し困ったようにしている男性にそう問うと、男性の方が頷く。
女性はぽつりと、ここはなんなのよ、と言った。女性は相当混乱しているようだ。男性の方に目を向け、再度問う。

「俺はフルギ。横の彼女はハヤサカさんです。…貴方は?」
「オレはホシダです。気が付いたら知らない部屋に居て、外に出てみたらいきなりこの人に引っ掻かれて…」

ホッタさんというそうです、と手の甲のきずを此方に見せながら曖昧に笑った。
彼女は気が動転しやすいのだろう、ホシダは気をつけてという意味で教えてくれているのかもしれない。
ホッタという女性は、未だに此方を見もせず、うつむいている。そんな彼女に、ハヤサカが声をあげた。

「…あれ、もしかして、リエ?」
「え、お知り合いですか?」
「はい…多分。中学の友達かなって」

そういったハヤサカがホッタに近づいていく。
その彼女に気が付いたホッタは、はっと顔をあげて、言葉を詰まらせた。

「…ぁ、」
「リエ、だよね?…久しぶり」
「リン、ネ…?」

やはり昔馴染みだったのか、ホッタの表情がいささかほっとしたような物にかわる。
それを見て、ホシダがこちらに近づいてきた。

「ホシダさん、その、大丈夫ですか?」
「はい。でもやっぱり、少し痛いですね」

ホッタが引っ掻いた傷は、半ば血が滲むほどで、彼女がどれだけのちからで彼に踊り掛かったのかが想像できる。
自分の近くに居たのがハヤサカでよかったと安心しつつ、ホシダの手の容体がきになった。
この状況下だ、わずかな傷でも感染したりしたら危ないかもしれない。できたら治療をしておきたかった。

「救急箱とか、どこかにあるんですかね…」
「どうなんでしょう。…そもそも、こんなところで堂々と話していていいものやら」
「……。」

少し声を潜めてあたりを見回したホシダの言葉に、改めてこの状況を考えさせられる。
誰かに誘拐され、どこかの館に連れてこられた四人…いや、もっといるのかもしれないこの状況。犯人がどのような理由で自分たちを連れて来たのかが重要だった。
誘拐して身代金?誘拐して何かを自分たちにしようとしている?実験、体の目的…。
最悪なのはサイコパスのような人間が、ただ自分たちを殺して楽しむために誘拐している場合だ。
それなら既に犯人は、どこかで誰かを殺している可能性すらある。
カサリ、とポケットの中で紙がこすれる音がした。そうだ、何かのメッセージ。

『ここから出られるのは一人だけ』

「ここから、出られるのは…」
「あ、フルギさんもあれ、読んだんですか?」

思わず口に出していたのか、それを聞いたホシダが白い封筒を出してきた。
中身も見せてくれたそれは、フルギが持っているのとまったく同じ。
再会を喜び合っていたハヤサカとホッタにも確認すると、やはり同じものを持っているようだった。
これが、この誘拐の何かのヒントになるのかもしれない。

「…あの、フルギ君。…他に人がいないか、探してみない?もしかしたら、居るかもしれませんし…。ね、リエ」
「…うん、そうね。」
「オレもそれがいいんじゃないかなって思います。」

三人の視線がフルギに集まっていた。
いつのまにか主導権を握らされているようだ。封筒をポケットにしまい、フルギも意見を述べる。

「俺も、それがいいかなと。でもその前に、玄関が開くか確認したいな。もし出られるなら、他の人もいたら一緒に脱出しよう。それからホシダさんのケガ、放置するのはよくないから救急箱も探そう」

指を一本ずつたてながら話したフルギの言葉に、ホッタがハッと気が付いたようにホシダの方をみつめた。

「あ、そうね…あのホシダさんごめんなさい…。気が、動転していて。申し訳ない事をしてしまったわね」
「いや、いいよ。こんな状況で、男なんていたら怖いですもんね」
「…ありがとう」

深々と頭をさげたホッタは、ハヤサカのおかげで大分落ち着いた様子だった。
これなら安心して探索することができるだろう。
じゃあまずは、玄関に行きましょう、と階段をおりはじめた。



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