ドアの前に立ち、じっとドアを見詰める。
この先に、もしかしたら自分を誘拐した犯人がいるのかもしれない。ドアに耳を近づけて外の音を探ってみたが、特に音はしなかった。
ゆっくりとドアノブをまわすと、案の定鍵は開いておらず、鍵穴に鍵を差し込むとぴったりだった。
犯人はなぜ、自分に鍵を渡すようなマネを、いや、むしろ見つけて出て来いとでもいうように封筒を置いたのだろうか。犯人の意図が読めないというところに不気味さを感じる。
ごくりと息を呑みながら、なるべく音をたてない様に鍵を舞わず。
かちり、と鍵穴が音をたてて空いた。ドアノブを再度ゆっくりとまわす。その時、悲鳴が聞こえた。

「なんなのよッ!ここは!!!」

女性の声だ。自分と同年代くらいの若い女性が憤るような声だ。
慎重にあけようとしていたドアを勢いよくあけ、外に飛び出す。出た先は中央の玄関と思しき1階から、階段でつながる吹き抜けと部屋を繋ぐ廊下だった。
吹き抜けを囲むように作られている廊下の、フルギの丁度向かいあたりに側頭部で長い髪の毛を結んだ女性が泣いている。
その隣では黒髪短髪の男がなだめるようにハンカチを差し出している。
一体あの二人は?あの様子はとても犯人には見えなかった。もしかしたら自分と同じような境遇なのかもしれない。
とにかくあの二人と合流してみようと考え、フルギは歩き出そうとした。それと同時にフルギのいた隣の部屋のドアが開き、女性が飛び出してきた。

「うわッ!?」
「きゃっ」

開けた途端体当たりするかのように飛び出してきた女性は、フルギにタックルをかます。
驚きながらもなんとか受け止めて女性を立たせると、申し訳なさそうな恥ずかしそうな表情をうかべていた。
女性もまた、フルギと年代が近いようだ。明るい茶色のセミロングが似合う綺麗な人だった。
少しどきどきしながら、とりあえず名前を問う。

「…あなたは?」
「私は、ハヤサカです。…あの、ごめんなさいっ」

名乗ると同時、勢いよく頭をさげられた。女の人の声が聞こえたから、はやくでなきゃって思って思わず飛び出してしまいました、と深々と頭を下げている。
なにもそこまで謝らなくてもいいのに。驚いて頭をあげてくださいというと、眉尻をさげ困ったような顔をして彼女は顔をあげた。

「あの、私もお名前お伺いしても…?」
「ああ、俺はフルギ。…ねぇハヤサカさん、君も俺と同じように、誘拐されて…?」

とても重要な部分だ。まさかこんな様子の彼女が犯人ではあるまい。
フルギと彼女と、向かいの廊下の二人。もしかしたら全員誘拐されてきているのかもしれない。ここまできたら、誘拐というのもただの妄想とも夢とも言えなくなってきているように思える。
聞かれた彼女は、少し自信がなさそうに「はい、そうだと思います」と答えた。聞くと彼女もここに来た経緯がまったくわからないのだという。

「一体、なんなんだ…?」
「わかりません、でも、誘拐されたのは…確かなのではないでしょうか」

不安そうに目を潤ませるハヤサカ。身長さによる上目づかいもあいまってか、それとも危機状態のつり橋効果なのか、ドキドキしてしまう。
少し目をそらして「そうですね」と答えた。それから廊下の向こうの二人が、こちらに移動してきていることに気が付いた。
ハヤサカに「あの二人と話してみましょう」と声をかけ、こちらからも近づいていく。



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