>> 溢れる涙と琥珀

佐(←)政
双子設定



片方しかない俺の視線と、
あいつの琥珀色が交わった。

目があったのなんて、
何年ぶりだろうか。

それはとてつもなく
長い時間だったようにも感じたし、
瞬きをするくらいの短さでもあった。


いつからか俺達はふたつになった。

それは、
もともとがひとつの個体であったとか
前世がどうであったとかではなく、


俺達は双子だった。

だった、というのも変な話だが。

二卵性で似たところなど無いし、
兄は母に嫌われていた。
小学校に入る頃には
喋ることすら許されなかった。


そして、
兄、佐助は県外の高校を受験し、
中学を卒業しすぐに家を出た。

対して俺は、特にしたいこともなく、
適当な男子校に入った。

佐助は頭が良かった。

それは
努力があったからこそなのだが、
俺以外誰もその事実を知らなかった。

佐助はそれを気にしなかったし、
俺だけが知っていればいいと思った。


俺は努力しなくても勉強はできたし、
とびきり良いわけではないが、
何処にでもいそうな
普通の学生だった。

母はそれを嫌がった。
俺よりも優れた佐助を見る度に
金切り声をあげ、
物を壊すようになった。

俺は知っている。
そんな母を見かねた父が
佐助を体よく追い出したのを。

父は母を溺愛していた。
母の嫌がるものを徹底的に排除し、
母を守り、そして弱くした。


佐助が家を出てから、数年。
俺は父親の会社に入社して、平凡な毎日を送っていた。
母は俺が家を出るのを嫌がり、
家の敷地内に俺の家を建てさせた。

不自由なんてしなかったし、
現状を変えようとも思わなかった。


ただ与えられた場所で、
なんの違和感も感じずに生きていた。


休日、特にする事もなく、
テレビを眺めていると、
母の居る母屋から声が聞こえた。


母屋からこの離れまで、
さほど距離があるわけじゃないが、
ここまで聞こえるほどの声だ。
何かしらあったのだろう。
上着を羽織って母屋へ向かった。


何があったかはすぐに分かった。



佐助が帰ってきた。

最後に会ったのは一年前。変わらない。

いや、佐助は家を出た時からほとんど変わっていない。

年に何度か、ここを訪れる事があるが
佐助は全く変わらないまま。

不意に、佐助がこちらを振り返り、
目があった。
琥珀色の瞳を細め困ったように微笑み
直ぐ視線を外した。

しばらくして、母は自室に戻った。

最近は体が弱くなっている。
だから佐助も帰ってきたのだろう。
嫌われていても母親には変わりない。
心配くらいする。

佐助は人に優しい。
いつも、笑っていた。
でもたった一度だけ、
泣き顔を見たことがある。

それはまだ、
俺達がふたつになる前のこと。

野犬に、襲われたのだ。
俺達は外で遊んでいて、
急に唸り声が聞こえて、振り返ると、
大きな犬がいた。
首輪はなく、野良犬だったのだろう。

俺は恐怖で動けなかった

ちら、と佐助の方を見れば、
佐助も動けないようだった。

目を離したのが悪かったのだろう。
気がつけば、
犬が俺にのし掛かっていた。

重い、こわい。

「や…さ、すけぇ…!」

「っ、あ…まー…っ!!」

佐助は恐怖で足に力が入らず、
ただ眺めているしかなかった。
そこで俺の意識は途切れた。

次に気がついたのは病室で、
視界が狭かった。
右目をやられた。
眼球に傷がつき、失明した。

暫くの間、高熱が続いて、退院する頃には母は変わっていた。
優しかった母は、
傷ついた俺を憐れみ、愛した。
その一方で、
無傷だった佐助を嫌い、憎んだ。

退院して、家に帰ってくると、
佐助は泣いていた。
初めて見た泣き顔に戸惑った。
佐助は何度もごめんねを繰り返した。

俺が何も言えなくて呆けていたら
母が来て佐助を叩いた。

幼い佐助はしりもちをつき、
潤んだままの瞳で俺を見た。

俺は、
佐助を見ることができなかった。

この瞬間、
俺達はふたつになった。





気が付くと、
俺の左目からは涙が溢れていた。

「…政宗?どうしたの?」

俺と佐助は向かい合って座っていた。

「ぁ、佐助…、」

涙は止まらなくて、
零れていった。




困ったように笑っている佐助を見て、



もう一度
ひとつになれたらと願った。



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -