「クフフ、やはり隣に君がいると落ち着きます。」 『私は落ち着かないわよ、まったく』 「たまには僕が後ろで前の席が由夜でもいいと思ったんですけどね」 『え……?』 「目の前に由夜だなんて最高じゃないですか。後ろから色々と悪戯したいです、クフフ」 『私、見てないで黒板を見なさいよ…!!』 「授業なんてつまらないでしょう」 『あんた、何しに学校来てるの』 「最初は暇つぶしだったんですがね。今はもちろん由夜と過ごしたいからですよ」 「由夜、私、教科書が揃ってないの……」 『え…?あぁ、だったら一緒に見ようか。』 「……!ありがと…」 「クローム、今のタイミングは狙いましたか、もしかして」 「え…?」 「少々タイミングが良すぎかと思いましてね」 「ごめんなさい、骸様…」 「そう素直に謝られると何も言えなくなりますよ、まったく。」 「……」 「いいですか、クローム。友人関係を築くことは良いです。ですが、くれぐれも僕と由夜の邪魔をしないようにお願いします」 「はい……」 『クローム、席くっつけるわよ』 「あ…っ、うん…」 「ちょっと待ってください、この距離はなんですか!」 この距離はなんですか!と言われても。 クロームと席をくっつけて真ん中に教科書を置いた方がお互いに見やすいじゃない。 そのせいで骸と距離が出来ても私としては、まったく問題ないしね。 むしろ若干、離れられて色んな意味でホッとする。 「クローム。僕の教科書を使いなさい」 「え…?」 「そして由夜はこちらへ来てください……僕に見せていただけますか」 『はい』 「え?」 『私の教科書を貸してあげる』 「由夜の教科書…!!それはそれで嬉しいですが話が違います…っ」 『何よ』 「ですからクロームが僕の教科書を使い、僕と由夜で席をくっつけて、ついでに身体もいつもよりも密着し授業を受けましょうと言っているのです」 『骸、あんたって本当に…』 「分からない問題があれば僕が手取り足取り教えて差し上げます。」 『………』 「あぁ、ですが逆に教わるのもいいですね…!!由夜が先生でしたら暇な授業も集中が出来る」 『………』 「クフフ、眼鏡をかけて下さると萌えますので、是非」 教科書一冊でどうして、ここまで妄想が出来るんだろうか。 しかも、何故、熱く力説が出来るんだろう。 呆れた目で見つめていれば視界に千種君が入った。 『あ……』 「……」 今、こっちを見てたのに明らかに視線を外したような気がするのは気のせい? 「また、めんどい事になってる…」とか「絡まれないうちに音楽に集中していよう」とか思ったんじゃないの。 いや、確実に思ったわよね。 私だったらそうするもの。 『とにかく、私とクロームで教科書を使うから』 「骸様、ごめんなさい…」 『クロームが謝ることじゃないでしょ』 「く……!!」 『教科書ないんだから仕方ないじゃない』 「由夜…」 『何…?』 「…例えばです」 『だから、何?』 「僕が教科書を忘れたならば、今のクロームのように席をくっつけて一緒に授業というシチュエーションもありですか…!!」 『は……?』 「どうなんですか、由夜」 『まぁ、本当に忘れたなら…』 「クフフ…」 『言っとくけどわざと忘れるのとは違うからね』 「な……っ!」 本気で悔しかったらしい骸。 授業が始まると私とクロームの方を見ては、ため息を零していた。 勉強しなさいよ、ちゃんと先生の方を見てなさいよ。 というか先生、骸を注意しなさい…!! 『……ねぇ』 「おや、由夜。どうしましたか」 『集中できないから、こっちを見ないでくれる?』 「嫌です。休んでいた分、見ていたいんですよ。僕を気にせずに授業を受けてください」 『……、クローム、分からない所ある?』 「あ……、そ、それじゃ、ここ……」 『この問題?』 「難しい…」 『これなら、この公式を使えば大丈夫……ほら、一度、解いてみなよ』 「う、うん…」 「クローム、なんて羨ましい…!!」 『あんたね…』 「由夜、僕もここが分からないのですが、教えていただけますか。出来れば、もっと傍に来て…」 『その問題なら、今、黒板で説明してるでしょ、ちゃんと聞いてなさい』 「………」 『…というか骸、あんた勉強出来るんじゃないの?』 「……」 この間のテスト、ほとんど九十点台だった気がする。 顔よし、スタイル良し、スポーツも出来て頭もいいって女子に騒がれてる存在だって事を今の今まですっかり頭から抜け落ちていたわ。 普段、馬鹿なことばかり言ってるからね。 『……』 授業中、ぶつぶつと聞こえる変態発言。 クラスの女子の耳には届いてないんだろうか。 というか隣の骸が地味に煩すぎて、いい加減イライラしてきた。 トンファーでぶん殴ってやりたいけど授業中に騒ぎを起こすのは嫌。 ……そう思っていた所でチャイムが鳴り響く。 『………』 クロームには悪いけど、次の時間からは…… 「おや、立ち上がってどうするんです?」 「由夜…?」 『ごめん、クローム』 「え…?」 スッと立ち上がり私は犬と千種君の所へ。 千種君は気付いたようで、ぼーっとしながら私を見ている。 そして犬は、机に伏せて、よくこんなに眠れるなってくらい爆睡している。 『ねぇ、犬…』 「……、…」 『犬……』 「んぁー…?」 『起きた?』 「おー…由夜じゃん、生きてたんらー…」 『生きてるわよ。ほら、立って』 「なっ!?ちょっ、何すんら!」 『いいから』 犬の腕を引っ張って私の席へと座らせた。 骸もクロームもきょとんとした顔で真ん中の犬を見ている。 犬は意味が分からないと言いたそうな顔でキョロキョロとしていた。 「んぁ?」 『犬、寝たいならここで寝てくれる?』 「な、何れオレがナッポーに挟まれなきゃいけねぇんだよ!」 「犬、聞き捨てなりませんね」 「じょ、冗談れすよ!ちょっとした冗談れすって!」 『寝るならどこでもいいんじゃない。それに窓際の方が日が当たって温かいでしょ』 「確かにあったけぇ…」 『それじゃ、そういう事で。あ…、クロームに教科書を見せてあげてね』 「何れ、オレがブス女に…っ」 「ごめん、犬…」 「あー!もう!これ使っていいびょん!オレは寝るからな!煩くすんなよ!」 「……、うん…!」 『という事で私はあっちの席で授業を受けるから』 「ま、待ってください、由夜…!!」 『待たない。私は静かに授業を受けたいのよ』 「だったら静かにします…!!」 『どうだか。しばらくは犬の席を借りる事にする』 休み時間終了のチャイムが鳴る。 私は千種君の隣へと座って、ふぅと一息。 今度は斜め後ろからの視線が落ち着かないけど距離があるから集中してしまえば、こっちのもの。 「由夜、骸様が……」 『気にしなくていいわよ。あぁ、そうだ、千種君。今日、スーパーでお肉の特売あるらしいよ』 「黒曜スーパー?」 『そう。私の方は今、恭兄は入院してるから、そんなに食材買わなくても大丈夫なんだけどね』 「だから、情報を教えてくれたんだ、由夜」 『犬とかよく食べそうだしね、頑張ってゲットしてきなよ』 「もちろん」 指先で眼鏡を掛けなおしてキラリとさせた千種君。 帰りはスーパーに行く気満々みたい。 後ろから何か聞こえるけど私も千種君も気にしない。 ちょっとした話題に花を咲かせていた。 「く…っ千種…!!由夜もあんな楽しそうに話して…!!僕にはいつにも増してクールでしたのに…!!」 「無欲のしょーりってやつじゃないれすかー?」 「煩いですよ、犬は静かに寝ていなさい。」 「んじゃ、おやすみれす……というか煩いのは、この場合、骸さんじゃないれすか〜?」 「何か言いましたか、犬」 「…っ!何れもないれす!」 end 2009/02/01 |