軽い朝食、薬と体温計を持って由夜の部屋へ。
今朝もあまり食欲はないみたいだ。

熱を計るように言えば素直に体温計を受け取る由夜。
よっぽど辛いのか、口数がいつもよりも少ない。

まぁ、元々喋る方ではないんだけど。



『……』

「まだ熱下がらないね、今日は僕が…」

『看病…なんて、いいから、学校、行って…』

「……」



ワォ、まだ何も言ってないのに断られたんだけど。
ベッドの中からじーっと僕を見る由夜、早く部屋から出ていけって無言の訴えだ。

パジャマで熱っぽい顔で睨まれてもイマイチ迫力にかけている。



「駄目だよ。今日は傍にいるから。僕みたいに風邪をこじらせて入院になってもいいのかい」

『私は恭兄みたいに風邪なのに無理して…フラフラ、どこかに行かない…』

「……」

『………』

「…とにかく。今日は家にいるから由夜は安心して休みなよ」

『……静かにしてて、よ』

「分かってる。何か必要なものがあったら言いなよ」

『……ん。ねぇ、恭兄…』

「どうかした?」

『………あり、がと。…一応』

「…いいよ、これくらい。」



僕の話をちゃんと聞いてるのか、ぼーっとしている由夜。
これ以上、起こしておくのも可哀相だから僕は由夜の部屋を出た。



「……」



…ありがとう、か。
妙に素直だと後が怖いかもね。

今日は時間がたっぷりある。
せっかくだから家事をしておこう。
いつも由夜に任せっぱなしだからね。
家事なんてやった事がないから食器を洗うくらいしか出来ないけど。



「………」



洗い物をして広くスッキリとした部屋を見渡して思う事は一つ、何をしたらいいんだろうか。

由夜は眠っているし昼までにはまだ時間がある。
学校に行かないと、こんなに暇だとは思わなかった。

ソファーに座り興味もない番組を眺めているとブザーが鳴った。



「ん……?」



こんな時間に誰?
草壁には学校を休む事は伝えたから風紀委員の奴らではない事は確かだけど。

何度も鳴るブザー、まるで出るのを催促しているようで煩わしい。
そんなに待たせてないでしょ。

これで下らないセールスだったら黙らせてやろう。



「煩いよ、そんなに鳴らさなくても…」

「クフフ、おはようございます、雲雀恭弥」

「……」

「おっと、ドアを閉めないでくださいよ」



扉を開ければ朝から見たくもない六道骸。
いや…、朝でなくても常に見たくない奴だけどね、こんな奴。

すぐさま、ドアを閉めようとしたけれど、六道骸は閉めさせまいと足を挟んだ。



「咬み殺すよ」

「少しくらい良いではないですか。全力でドアを閉めないでくださいよ、足が痛いんですが」

「煩いな、閉めたいんだよ、僕は。」

「中に入れてください」

「僕と由夜の家に君を招き入れる訳ないだろ。何で来たのさ」

「由夜の風邪は僕が原因ですから」

「君が?そういえば昨日、見舞いに行ったらしいね」

「えぇ、由夜と色々とありまして……クフフ、これ以上は彼女が恥ずかしがるので言えませんが」

「……君、よっぽど高熱だったみたいだね」

「どういう意味ですか、それは」

「高熱で現実と妄想との区別がつかなくなったんだろ、可哀相に。うちの由夜に限って不純異性交遊なんてありえない。」

「クフフ、兄が認めたくないのは分かりますがね」

「妄想は頭の中だけに留めておきなよ、僕の由夜に近づくな」



お互い譲らずに睨み合う。
僕はイラついて今すぐ目の前のこいつを咬み殺したくて仕方がない。

由夜はよくこいつと同じ学校、クラス、隣の席で耐えられるね。

……あぁ、そうか。
積もりに積もったストレスで熱が出たに違いない。



「足、どけてくれるかい」

「そうしたら閉めるでしょう?」

「当たり前。君とは一秒たりとも言葉を交したくないね」

「おやおや、嫌われたものですねぇ…」

「由夜と僕は似てるからね、由夜も同じ気持ちだよ」

「それは少し違うと思いますよ」

「……?」

「うざい、煩い、離れて、変態、咬み殺してあげる、と頻繁に言われ冷ややかな瞳で睨まれる事はしょっちゅうです」

「………」

「ですが"嫌い"とは言われた事はまだないですから」

「……」

「あぁ、もう少しデレの部分を見せてくださってもいいでしょう、由夜…!!確かにその冷たさもそそられますが…!!」



深いため息を吐く六道骸。
無駄に哀愁が漂っているのは気のせいだろうか。



「………」



そんな事を気にする場合じゃない。
今はドアに挟んでいる六道骸の足をどかさないと閉められない。

トンファーは部屋に置いてきたから攻撃が出来るようなものがない。
地味だけど傘で突いてやろうか。

見れば見る程、ムカつく顔。
こいつと由夜が同じ学校だなんて嫌だ。

やっぱり、由夜を並盛へ転校させたいな。



「……」

「そういう考えはやめた方がいいですよ」

「何?」

「大方、僕と由夜を引き離そうと思っていたんじゃないですか」

「まぁね、正しくは黒曜から引き離そうと思っていた所だよ」

「例え、並盛へ転校しようが構いません」

「へぇ…」

「もれなく僕も並盛へ転校します、クフフ」

「そんなの僕が許さない」

「えぇ、だから諦めてください。僕も並盛の制服なんて着たくありません、由夜のブレザー姿は少し見たいですがね…」

「ブレザー…」

「今、想像したでしょう?」



本当、ムカつく。
あぁ、確かに想像したよ、並盛の制服を着た由夜をね。

ブレザーも似合う。
だけど、由夜が並盛に転校したら風紀委員に入れよう。
そうしたら僕が学ランだから由夜はセーラー服を着て欲しい。



「クフフ…セーラー服も捨てがたいです」

「……何を言ってるんだい」

「雲雀恭弥が学ランを着てるじゃないですか。だからセーラー服もありではないかと思いまして」

「……」



ワォ、こいつと考えが被るなんて不愉快極まりないね。
僕も六道骸と同レベル、変態みたいじゃないか。



「ですが、やはり黒曜の制服が一番です。あの計算しつくされたチラリズムはたまりませんよ、クフフ…」

「変態。早く帰りなよ」

「想像してみてくださいよ、白い腹部を時折り覗かせる絶妙な丈。スカートはヒラヒラと……」

「語れなんて言ってないよ、帰れと言ってるのが理解、出来ないのかい」

「ならばいい加減、入れてくださいよ。一目、様子を見たら大人しく帰りますから」

「やだ。由夜なら眠ってる、これでもういいでしょ」

「眠っている…」

「……?」

「という事はパジャマですか!」

「……」

「クフフ、パジャマ姿もそそるものがありますよね…!!不謹慎ではありますが是非、拝見したいものです」

「咬み殺す。」

「嫌ですよ。まったく兄妹揃って本当に頑固で怒りっぽいですね。まぁ、由夜が怒るのは大変、可愛いらしいと思いますが」

「今、僕の手にトンファーがあったらいいのに。君を咬み殺したくて仕方がないよ」

『………トン、ファー』

「おや?」

「…由夜?」



バッと後ろを見れば、ぼーっと立っている由夜。
熱があるからかフラフラしながら歩いてきて僕らを瞳に映す。

起きるには辛いだろうに何で無理するかな。
これじゃ、本当に入院させないと心配でならない。



「……由夜、眠るって言ってたじゃない」

「由夜、具合はいかがですか?これ、お見舞いの品です」

「ねぇ、勝手に家の中に入れないでよ、六道……」

「大丈夫です、盗聴もカメラもつけてません」

「そういう心配をしてるんじゃないから」

「それにしても黒のパジャマ…!クフフ、色っぽいですね、由夜」

「見ないでよ、変態」

「妹のセーラー服姿を想像してた君に変態と言われたくないです」

「な……」

『骸…恭、兄……』

「どうしたんです、辛いんですか…?寒気がするのであれば僕が温めて差し上げますよ…」

「部屋に戻りなよ…、って、由夜は何でトンファーを構えてるんだい?」

「これは……嫌な予感がしますね」

「は…?」

『骸も恭兄も煩い……』

「ほら、僕の予想が現実となりそうです」

『頭、痛いし熱いし、眠り…たい、のに……』

「ちょっと。君のせいだよ、六道…」

「いや、これは僕だけのせいではないですよ、大声を出したのは君でしょうに。」

「僕のせいだって言いたい訳?」

『…ー…っ!!』

「な…っ!?」

「く…!!」



由夜は僕らにトンファーで一発ずつ食らわせて玄関のドアを閉めた。

衝撃からフラフラとする頭を抱えて起き上がる。
何で僕まで殴り飛ばされなきゃいけないのさ。

しかも熱で力の加減が出来ないのか、いつもよりも痛い。



「…ー…という事だから、六道」

「……えぇ、これ以上この場で騒ぐのは危険ですね、帰ることにしますよ」

「………」

「君はどうするんです?」

「何が」

「由夜、鍵を閉めたみたいですけど」

「……!」



何で僕まで締め出されないといけないんだい、由夜。
仕方ないから学校に行くしかない。夕方には由夜も起きるだろう。

あぁ、せっかく看病しようと思っていたのにな。
そう思ったら、ため息が自然に出てしまった。

そんな僕を見て六道はクフフと笑うと何かを悟っているように僕の肩をポンっと叩いた。



「……」

「………」



こいつに同情される事ほど不愉快なことはない。
そう思った一日だった。



end



2009/01/27

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