***


『……ん?』



ベッドに入ってから、いつの間に眠ってしまったんだろう。
うんうんと考えていたけれど私は睡眠欲には勝てないみたいだ。

ちゃんと眠ったけれど、普段より眠ってないから少しだけだるい。



『……起きよう』



制服に着替えて、朝食の準備。

一晩したら大分、落ち着いて冷静に考えられる。
骸の顔を見たら、ぶん殴ってしまいそうだけど。

昨日、我慢したんだから一発二発くらい、いいわよね?



「ワォ、由夜、今朝は早いね」

『あぁ、恭兄、おはよう…』

「おはよう。……と、昨日は帰ってから、すぐ部屋に入ったけど何かあったのかい?」

『え……?』

「まさか、六道骸絡みじゃ…」

『……ッ』

「由夜?」

『な、んでも、ないから。さっさとご飯食べちゃってよね、恭兄』

「……?」



二人きりの朝食、今朝はいつもよりも会話が少ない。
私が不機嫌なのを恭兄も察しているからか。

こんな朝は、ご飯もおいしく感じない。



『ごちそう様……』

「……食欲ないのかい?」

『まぁね…』

「………」

『何…?』 

「…いや、何でもない。」



学校に行く準備をしていると頭を一撫でされる。

恭兄なりの気遣い?
普段なら隙あらば額や頬にキスとかするのに今日はやたらと兄らしいと思う。



「行ってきます。…いいかい?何かあったらすぐに携帯に連絡するんだよ」

『別に大丈夫…』

「分かったね?」

『………』

「返事。」

『…はーい』

「いい子」

『…言わされたようなもんなんだけどね』

「……何か言ったかい?」

『何でもない。私も学校行く』

「もう?…だったら送ってあげる。」

『え……』



時間が早いから恭兄はバイクで送ってくれると言う。
別にいいと言っているのに恭兄は譲らず結果的にバイクで送ってもらうことになった。

いつも思ってたんだけどさ、学ランを羽織ってるだけでバイク乗って何で飛ばされないのかな。
後ろに乗って、学ランを引っ張ってみたけど至って普通の学ランだった。



「何してるの?」

『…何で羽織ってるだけの学ランでバイクに乗って飛ばされないのかなと思って』

「……」

『……?何、その顔…』

「別に」

『…で、何で?』

「気合い。」

『…は?』

「とばすよ。しっかり僕を抱き締めててよ」

『えっ、な……っ』



学ランについてツッコミしてはいけなかったのか、恭兄はいつもよりもスピードを出す。
しっかり掴まっててじゃなくて抱き締めててよ、って何を言い出すのか。

絶対にそんな事するもんか、とは思っても、このスピード。
掴まっていないと不安だったから、つい恭兄にぎゅっと抱きついた。

信号で止まり私をちらっと見た恭兄はどこか満足そうに口角を上げる。

……これが目的でスピードを出したんじゃないだろうか。



「ねぇ、由夜、着いたよ」

『……ありがと』

「僕としては、もっとくっついていても構わないけどね。」

『私はやだ…』

「由夜が早起きするなら毎朝でも送ってあげたいくらいだよ」

『無理……、それじゃ、行くから…』

「待って」

『なに?』

「行ってらっしゃい」

『……行ってきます』

「それと……、いいかい?変態に出会ったら……いや、見かけたらすぐに僕に電話を…」

『大丈夫だってば』

「……だったらせめてこれを持っていってよ」

『何これ』

「スタンガン」

『いらない』



今日に限って何であんなに心配性なんだろうか。
まさか、昨日の事を見ていたとか…?
いや、見てたんだったら、すぐに骸を追いかけて来そうだけど。



『……考えるのやめよ』



教室に行くと早いだけあって登校している生徒は数名しかいない。
外は風が冷たいから席に座って本を読んでいた。

…というか、そろそろ、骸達が来るんじゃ?
まぁ、来たなら、とりあえず一発は殴りたいとは思うけど……



『気まずい、ような…』



ポソリと呟けばクラスメイトが振り向いて私を見た。
いつもなら見られようが気にしないけれど今日は違う。

居心地が悪く感じてしまって席を立つ。
屋上か中庭か、どこかで時間を潰そう。



『あ……』

「……おはよう、由夜」

「んぁ?んだよ、今日も早いな、お前」

『……おは、よう』

「由夜、どうしたの…?顔が赤いけど…」

「骸さんみたいだびょん」

『む……ッ』

「……由夜?」

『骸…っ、あのバカは…?』

「骸さんなら今日は休みだびょん」

『は…?』

「…熱が出た。昨日、帰って来てから。」



熱……!?という事は風邪?
骸も風邪、ひくんだ、というのは置いといて。

気が乗らないけど学校に来たのに肝心のあいつが休みだなんて無性にムカつく。
人のこと振り回しておいて…!!



「由夜?骸様と何かあった?」

『……っ!』

「骸様、いつにも増して理解が出来ない…」

『……何か、あったというか』

「喧嘩したなら、骸様でも犬でも殴っていいから許してあげて欲しい。悩みすぎてる骸様、めんどい…」

「おい、柿ピー!!オレを殴っていいと意味が分かんねぇびょん!!」

「オレが怪我したら家事、誰すんの?」

「う……」

『……すっかり主夫してるのね、千種君』

「まぁね…」

『……骸はアジト?』

「え…?」

『一発、いや…二発で許してあげなくもない。』

「……何したの、骸様は」

『な、何って言われても……っ』

「………」

『と、とにかく!私、今から行って来るから』

「サボりだ、サボり。」

『う、うるさいわよ、犬』



犬にからかわれて教室を後にする。
せっかく学校に来たけどユーターン、黒曜センターへ向かう。

何で気まずいと感じている私が行くことに?と思うけど一言くらい文句を言いたい。



『……』



だけど、本当に風邪なら一応、何か買って行った方がいいかな。
クロームがいるはずだから朝からだけどチョコレートケーキ、一応、犬達の分も余分に買っておこう。

それと、骸には……



『やっぱり"これ"にしよう』



スーパーでムカつくほどわさわさと群れている南国果実。
つまりはパイナップルを乱暴に鷲づかみ買い物カゴの中へ放り投げた。

パイナップルを見て苛々する恭兄。
いつもなら何でそこまでと思うけど、今ならすごく気持ちが分かる。
ムカつくったらありゃしない。

今すぐ真っ二つに切ってフォークでぶっ刺してやりたい程に。

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