骸様の誕生日パーティーが無事に終わった。 クロームと犬は騒ぎ疲れたのかソファーに持たれかかって眠ってる。 風邪をひいたらめんどいから、クロームには冷えないように毛布をかけておくか。 今日の主役の(まぁ、いつでも主役みたいな人だけど)骸様は由夜を送りに行った。 それにしては随分と帰りが遅い。 まさか雲雀恭弥と会ってしまって戦闘になっているのかと思いつつ、オレは黙々と後片付けをしていた。 「……めんどい」 起きろよ、犬。 嫌がらせにつんと足で突いても全然、起きやしない。 オレ一人でやるしかないか、面倒だけど油汚れは放置しておけない。 一息吐いて洗い物をしようかとした時、背後にゾクリとした気配がして振り返った。 「……っ!?」 「ク…フフ……」 「骸様、でしたか…」 「ク……フフ…フフ…フ…」 「……!?」 暗い、今までにないくらい暗い。そして気色が悪い。 お願いですから暗闇で気配を消し、笑いながら背後に立たないで下さい。 ずーんとした空気。 もしかして、また馬鹿な事を言って由夜を怒らせてトンファーで殴られたんだろうか。 気絶していたから帰りが遅かったのでは…? 「……また由夜を怒らせたんですか?」 「怒らせた……」 「骸様……?」 「怒らせた…。そう…、そうですね……」 「あの……?」 「クフフ、いっその事、怒って殴って罵ってくれたなら、よかったんですよ……」 「……?」 「……最悪最低です、僕」 「………」 最悪最低は今に始まった事じゃないと思うんですが。 一体、何があったのか。 今まで殴られても何を言われても、不気味なくらいすぐに回復したのに。 不思議に思いながらオレは骸様の独り言に耳を傾けた。 「クフフ……」 「……」 力なくふらふらと歩き骸様はソファーに座る。 どことなく赤い顔、片手で口を覆って目線を逸らしている。 「何だかんだ言って理性はあるつもりでしたよ……」 「……(…あれであるつもりだったんだ)」 「ですが、こう、ぷっつり切れて……、そうしたら目の前に……」 由夜が切れて一瞬で目の前に来られ思いっきり殴られたんだろうか。 だけど、それはいつもの事だ。 それで、ここまで凹むことは今までない。 「あぁ、どうしましょうかね。もう後の祭りなのですが……それにしても…僕、由夜と……」 「……」 「………」 ……悶々としている。 照れてるのか顔を赤くしたと思ったら、また暗い影を背負い込んで沈む。 まったく、いつでも忙しい人だ。 「骸様…」 「………」 「……骸様」 「……っ、何ですか、千種…」 「……どうかしたんですか?」 「その、…それは、ですね」 「それは……?」 「それはー…」 「……」 「………」 言葉に詰まるなんて珍しい。 いつもの骸様なら、どんな時でもスマートに誤魔化したり交わしているのに。 さすがに、これはオレでも分かる、由夜絡みで何かあったな、と。 大人びて見える骸様だけれど彼女が相手だと、こんなにも年相応になるのか。 「……骸様、顔が赤いですよ」 「…からかわないで頂けますか、千種」 「珍しいですね、いつも由夜に殴られたって沈む事も反省する事もないじゃないですか」 「……本当、あの場で即座に殴ってくれたなら僕だって今、こうも動揺していませんよ」 「……?」 「はぁ……学校で…由夜と合わせる顔がないです。」 「……」 ………え、何を今更。 合わせる顔がないなんて、もうとっくの当だと思うけど。 でも、追い討ちをかけるような事は止めておこう。 さらに落ち込んだらめんどい。 「……話くらいなら、聞きます」 「………」 「…言いたくなければ、いいです。」 「……」 「オレ、後片付けがあるんで……先に休んでください」 「……待って、ください」 「……?はい…?」 「…もしもの話ですよ」 「………」 その場を去ろうとしたオレを引き止める骸様、その表情は真剣そのもの。 もしもの話、というよりも骸様と由夜の話で間違いないだろう。 結局、話すなら遠まわしではなく普通に話せばいいのに……めんどい。 「本当に仮に、ですよ。」 「はい」 「取り返しのつかない事をしてしまったら千種だったらどうしますか?」 「謝ればいいのでは…?」 「………」 「……」 「そう…ですよね…」 「………」 ……えぇ、何でこのタイミングでさらに落ち込むんですか、骸様。 由夜に何かをしたのは間違いなさそうだけど、いつものようなじゃれ合いではなく本気で喧嘩でもしたのだろうか…? 怒らせて大嫌いとでも言われたのか。 「……」 「謝る…謝って…謝ったとしたらー…」 「………」 「ですがー…」 ブツブツブツブツ、骸様の独り言は止まる事はなさそうだ。 …オレはどうすればいいんだろうか。 いっその事、犬やクロームのように眠っていたなら、この状態にならなかったと思うのが悔やまれる。 犬、起きてよ。 つんと蹴ってもピクリともしない。 ……骸様の話を聞きたくないからって、チャンネル使って死んだふりとかしてたら明日の朝食、抜かすよ。 「……」 「………」 「あぁ、どうしたら……」 「…………」 ノンストップの骸様。 そして、先程からずっと何かを考えては沈んだり赤くなったりの繰り返し。 熱でも出てるんじゃないだろうか。 「……」 「はぁ……」 「……骸様、すみません」 「…何です?」 骸様の額に手を当てる。 ………熱い?妙に息が上がっていて顔が赤いのは、熱のせいで間違いなさそうだ。 「骸様、熱がありませんか…?」 「は…?確かに熱いですが、熱はないと思います、けど」 「もう休んでください。」 「それでは、あっという間に朝になってしまうじゃないですか!そうしたら学校に行かなきゃいけないんですよ」 「別にいいじゃないですか」 「良くないですよ、由夜に会っー…」 急に立ち上がった骸様はふらっとよろけた。 力が入らないようで、またソファーへ身体を預けている。 「休んでください、熱があります」 「…っ別に大丈夫ですよ、これくらい」 「熱いです。…風邪でも引いたんじゃないですか」 「これは、本当に風邪、ですかね」 「………」 今の骸様なら解決もしない悩みを考えすぎで熱が出たって言ってもおかしくないけれど。 骸様もそう思っているのか頭を抱えてまた悩んでる。 熱がこれ以上、上がっても知らない。 「……」 由夜と何があったのか。 こんなにも気になるのは、きっと骸様の事だからじゃない。 由夜の事だから、気になるんだ。 オレも由夜が好き、だと思うから。 「……(好き…)」 きっと、この先、冗談でも一生、言葉にしない。 オレは救ってくれた骸様の幸せを望んでる。 少し先の未来、骸様と由夜、そこに犬やクロームがいるのが、オレの幸福の形。 そう思うから。 「……」 「……っ由夜」 「やっと寝たのはいいけど、うなされてる…」 「う……っ」 「骸様、由夜に何したんですか…」 end 2008/06/15 |