私と千種君は料理を作り、出来上がったものから犬が掃除した部屋のテーブルに運ぶ。
犬にしては珍しくちゃんと掃除してあった。

それは、やっぱり骸を喜ばせたい一心からだろう。

何だかんだ言いつつも犬と千種君、クロームだって骸の事が大切なんだ、そう思った。



「ケーキ、買って来た…」

『お疲れ様……って、何これ…?』

「誕生日のケーキって言ったら蝋燭もつけてくれて、チョコプレートに名前も書いてもらったの」

「………」

『……』



だからって、これは…。
この歳になって「むくろくん おたんじょう日 おめでとう!」だなんて。

しかもクマやうさぎの砂糖菓子がついていてファンシーすぎる。



『……』



……まぁ、いっか。
せっかく付けてくれたんだし蝋燭もケーキに立てておこう。

そろそろ帰って来るんじゃないか、そう思っていると後ろから物音が聞こえた。
振り向けば骸がいつもと雰囲気が違う部屋に辺りと見回していた。



『あ……』

「これは一体?犬達、何をしているんです?」

「骸さん!?もう帰って来たんですか!?」

「何でそんなに慌てているのですか、…と、由夜?」

『おかえり。お邪魔してるわよ、骸』

「た、ただ今、戻りました……というか何故、由夜がここに…!?」

『用事があってね』

「そうでしたか、それにしてもエプロン姿でおかえり、だなんて新婚さんみたいじゃないですか!」

『ちょっと待った。それ以上、近づかないでくれる?』

「いいじゃないですか!エプロンだなんて夢にまで見たんですよ…!!」

『一体どんな夢を見たらエプロン姿で私が登場するのよ』

「しいて言うならR18指定ですかね」

『咬み殺してあげる…!!』

「由夜!だめ……!!」

『……っ!!』



ピタッ。

クロームの声に我に返り骸に当たるすれすれでトンファーを止めた。



『……』



危ない危ない。
つい、いつもの調子で殴ろうとしちゃった。

ここで殴って気絶させたら、せっかくの料理も冷めちゃうじゃない。

誕生日なんだから、今日はトンファーを使わないようにしなきゃ。

今日くらいは我慢だ、我慢。



「……どうしたんですか?いつものようにトンファーは…」

『…別に。今日はクローム達に免じて殴らない』

「それはつまり何をしてもいいと…!!」

『……!!』

「由夜!」

「だめ…」

「我慢しろって!」

『わ、分かってる…。分かってるけど、でも…ッ!!』



怒りを抑えるように力を込めてトンファーを握るから手が震えてしまう。

何これ、ストレス溜まる…!!

だけど、変態発言なんていつもの事。
そんな事で一々、苛々して仕方がない。

そう自分に言い聞かせ、無理矢理、納得させてトンファーをしまった。



『……骸。さっさと座りなさいよ。あんたのために準備してたんだから』

「準備?一体、何の準備なんでしょう?」

『誕生日なんでしょ?』

「……誕、生日」

「そうれすよ!六月九日れすよ!骸さん、おめれとうございまーす!!」

「おめでとうございます、骸様…」

「由夜も協力してくれたんです、骸様…」

『クローム、余計な事は言わなくていいから。』

「照れてる?」

『…照れてない。ほら、骸。ケーキの蝋燭に火を点けたから早く消してー…って、どうしたの?』

「………」

『骸?』

「あ…、いえ、その…」

『……?』

「…まさか、こんな事をしてくれるなんて思ってなかったので」

『……!!』



ゆらゆらと揺れる蝋燭の火を見つめ、骸は本当に嬉しそうに穏やかに笑う。
そして犬や千種君、クロームも微笑んだ。

ケーキの蝋燭の火を消して、料理を食べて千種君達は骸にプレゼントを渡す。
何気ない時間はあっという間に過ぎていく。

私はそろそろ帰らないといけない時間。
携帯の時計を見て席を立つと骸も一緒に立ち上がった。



「送りますよ、由夜」

『骸、別に送らなくていいんだけど』

「そういう訳にはいきません。こんなに暗いんですから」

『……』

「足元、気をつけてください。僕等が住んでいますが、ここは元々廃屋、足場が悪い。」



骸が先を歩いてくれて、その後に続く。
歩くと硝子の破片が砕けるような音がする。
昼間よりも強調されて聞こえる。



『……』

「おや…?もしかして怖いんですか?」

『違う。よくここに住んでいられるなって思って。』

「ここが僕等の居場所ですからね。」

『……そう』

「住めばどうって事ないですよ。」

『まぁ、そうみたいね。普段、使う場所はちゃんとしてるみたいだし』

「一緒に住みます?」

『……最後に一発、食らいたい?』

「クフフ、遠慮します」



骸は機嫌が良さそう。
さっきからずっと、そう。
パーティーを喜んでくれたみたい。

どうなる事かと思っていたけれど、これなら成功よね。

せっかくの誕生日。
今日はやっぱり殴るのはやめておこう。

たまには、こんな日だっていいでしょ。

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