「おっ!!やっと来たびょん!」

「由夜…」

『犬に、千種君……?』

「由夜、ガッカリしてる?」

『は?何で?』

「骸様じゃなくて」

『何で待ってたのが骸じゃなかったからって私がガッカリしなきゃいけないのよ』

「……」

『…そ、それはそうと何?私を待ってたの?』

「そうだびょん!!お前に頼みがあるんら!」

『……先、学校に行くから』

「んなー!!」



すごく張り切っている犬。
骸がクフフと笑う時と重なり、嫌な予感が過ぎった。

…飼い主に似るんだろうか。



「待て!待てって!聞くくらいはいいだろ!!」

『よくない。絶対に変なごたごたに巻き込まれる』

「由夜……」

『いくら千種君の頼みでも嫌なものは、いー…』

「……」



嫌、はっきりと言おうとした時、千種君は眼鏡をキラリとさせた。
これはこれでなんか嫌な予感がする。



「今日、黒曜のとあるスーパーが特売……しかもタイムサービス有り」

『……っ』

「知りたくないの?」

『そ、それは…』

「最近、どこも値が上がってるからね」

『………』

「……どうする?」

『…ー…分かったわよ』

「本当?」

『本当。正し、千種君も今日、買い物に付き合ってよ。』

「了解。」

「おっ、話まとまったびょん!?んじゃ、由夜!六月九日はこの服を着てくれ!」

『……は?』



犬がバサッと出したのはメイド服にナース服、それに並盛ブレザーにセーラー服、ネコ耳、うさぎ耳に尻尾。

これは、いわゆるコスプレっていうやつ…?

…やっぱり飼い主に似るのね。



『犬、あんた、そんな趣味があったの…?』

「オレの趣味じゃねぇびょん!これは骸さんの趣味だびょん!」

『余計に咬み殺したくなった…!!大体、何で九日に着なきゃいけない訳?』

「骸様の誕生日……」

『え…?誕生日…?』

「…そう。今年は祝いたい。オレ達、毎年、落ち着いた場所にいなかったから…」

『千種君、そういう事情があるならー…』

「着てくれるびょん!?」

『違うから…!!それは絶対に着ない。大体ね、こんな余計な事するより普通に皆で祝った方が骸も喜ぶんじゃないの?』

「由夜……」

『何?』

「いや、骸様の事、分かってるんだな…って…」

『一般論でしょ、祝ってもらって喜ばない人いないんじゃない?』

「……そう」

「お前ら暢気に喋ってないでどうするんだよ!パーティーすんの?しねぇのかよ!」

「準備めんどいけど、それがいいかもね……由夜も来てくれるよね?」

『は…?何で私も…?』

「メイドやセーラー服じゃなくてもお前がいた方が骸さん喜ぶびょん。ついでに料理を手伝えよな!」

「犬は手伝わないくせによく言う…」

「うっせー!オレは飾りつけするびょん!!」



という事で六月九日は骸の誕生日パーティーをすることになった。

私は九日当日、千種君達に呼ばれて彼らの"アジト"に顔を出す。
骸達が住んでいるアジトは色んな意味で想像を遥かに超えていた。



『汚い、ボロい。あんた達、こんな所に住んでるの?』

「仕方ねぇだろ!ここだって居心地いいんだびょん!」

「汚いのは犬が菓子や物をそこら辺に放置するから。ボロいのはここで犬が暴れるから」

「銭湯にも行かないし困ってるの…」

『犬……、今すぐに銭湯に行ってきなさい。』

「嫌だびょん!柿ピーと由夜は、さっさと料理を作れよな!」

『分かってるわよ。そういえばクロームは何するの?』

「私はケーキ買ってくる…、骸様、出かけてる間に早くしなきゃ」

『…そう。それにしても丁度良く骸が出かけてくれてよかったわね』

「骸様に由夜が隣町のスーパーのタイムセールを狙ってるらしいって情報を流しておいたの…」

『………』

「そうしたら、早めに出かけちゃった。それじゃ、私も行って来るね…」



クロームは行ってくる、とバックをぎゅっと抱き締めて出かける。

可愛い子なんだけど、中々、用意周到というか抜かりないというか。
そんな情報で出かけてしまう骸も骸だけどね。

頭を悩ませながら私は千種君と料理に取り掛かる。
けれど犬がうろちょろとしてどうも落ち着かない。



「犬…」

『邪魔。…ハウス。』

「イヌ扱いしてんじゃねぇよ!」

『じゃあ、散歩に行ってきなさい』

「だから、イヌ扱いすんじゃねぇって!」

「いいじゃねぇか!何を作るのかくらい見てたって!!」

『狭いんだから出来るの待っててよ。つまみ食いしたら咬み殺すから』

「……」

「今日ばかりはオレも容赦しないよ…」

「オ、オレがいつもつまみ食いするみてぇじゃんか!」

「…するだろ、いつも」

『犬はさっさと飾りつけと掃除しなさいよ』

「……」

『返事は?』

「…返事」

「……うっわ。口うるさい小姑二人だびょん」

『……』

「………」

「わ、分かったびょん!やればいいんだろ!やれば!」



犬が出ていき静かになったキッチン。
トントントンと包丁の音とぐつぐつと鍋の音が聞こえるだけだったけれど、料理が一区切りついて千種君が話しかけて来た。



「…由夜」

『……ん?』

「……、骸様、これで喜ぶと思う…?」

『喜ぶと思うけど』

「いつもと変わらない。普通の食事だと思うけど」

『でも、クロームがケーキを買ってくるって言うし、それに…』

「……?」

『骸は特別な事なんて一つも望んでないと思う』

「………」

『…?どうかした?』

「……、…無自覚、か」

『……?』

「……何でもない。」



千種君はふぅとため息をついて、料理を再開した。

手際がいいから、ずっと料理担当なんだろうな。

…スーパーで出会うくらいだしね。

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