『……ワーォ』 昨日、チョコを作って眠った。 そこまでは覚えてる。 でも、何で気がついたら朝の九時になってるんだろうか。 この時間は確実に遅刻決定よね。 『恭兄は、もう学校に行ったみたい…』 確かバレンタインは生徒を取り締まるとか言って毎年、早めに出るんだった。 私も早く着替えて学校に行かなきゃ。 鞄にチョコを押し込んで家を出る。 今日は嫌なくらい晴れていて眩しい。 …やっぱりサボろうかな。 でも、サボったらサボったで骸を始め、家に連絡が入ったら恭兄が煩い。 そう考えているうちに学校に到着した。 丁度、休み時間。 クラス内に甘い匂いが微かに漂い、女子も男子もどこか浮ついてる雰囲気だった。 『……はぁ、やっぱり帰ろうかな』 「やっと来たびょん、由夜!遅刻ら、遅刻!」 「うるさいよ、犬」 『うるさい、犬…』 「ぎゃん!柿ピーと一緒に言うなよな!!」 「おはよう、由夜」 『ん…、おはよう、千種君』 「オレを無視すんじゃねーっ!!」 『……』 あぁ、そうだ、丁度いい。 煩い骸もいないし先に渡しておこう。たくさん作ったからね。 余っても私は食べないし、恭兄にだって限度があるだろうから。 『千種君、これ』 「…?なに…?」 『チョコ。いつもお世話になってるから。あとクロームにも渡しておいてくれる?』 「……」 『千種君?』 「あ……」 『どうしたの?』 「何でも、ない…。クロームにも渡しておく。…ありがとう。」 『うん』 「な、なぁ……」 『犬、どうしたの?』 「オ、オレには?何れ柿ピーにはあってオレにはねぇんだびょん!何かムカつく!!柿ピー、影薄いのに!!」 『犬にもちゃんとあるわよ、はい。』 「……へ!?」 自分から催促したくせにチョコレートを差し出せば間の抜けた顔。 …何なの、その反応。 『何?いらないなら別に…』 「い、いる!!そこまで言うなら貰ってやってもいいびょん!」 『いや、別に、そこまでは言ってない』 「だー!!よこせって!!」 乱暴に私の手からチョコレートを奪う犬。 慌てなくてもちゃんとあげるのに。 慌てるほどチョコレートが欲しいのか、そんな犬がおかしくて顔が綻ぶ。 『ねぇ、そんなに好きなの?』 「なっ、何を言ってんだびょん!!オレは別におま、お前の事なんて…っ」 『……?何で私?チョコの事だけど』 「………」 『どうしたの?』 「何れもねぇよ。ほら、あれだ!疲れた時には甘いものだびょん」 「犬、疲れる時なんてある……?」 『…なさそう』 「………」 『あ…、ねぇ、骸は?』 「骸様?骸様ならあそこに……」 千種君が指を指したのは教室の窓際。 骸の席、その隣は私の席だけど周りには女子の群れ。 耳を澄まして声を聞き取れば「骸君、これ貰って!!」だの「おいしいか分からないけど…」と明らかにチョコレートを渡してるであろう声が聞こえた。 隙間から見えた骸はまんざらじゃない様子。 『……』 「由夜?」 『……私、次もサボるから』 「はぁ!?お前、そんなにサボって平気なのかよ!?」 『大丈夫。』 「由夜、どうしたの?」 『別に。ただ読みたい本があるから。それに、どうせまた次の休み時間には女子の群れになるんでしょ?』 「多分……」 「つか、朝から時間があれば、あの状態だから確実だびょん」 『ただでさえ煩いのに今の骸の隣の席なんて女子が煩くて苛々する』 じゃあね、そう言い残して私は屋上へと向かった。 外は冷たい風が吹き抜け肌寒い。中庭に行くべきだったかな。 中庭の方が日が当たって暖かそう。 そう思ったけど移動するのが面倒でベンチに座って空を見る。 授業が始まったからか、さっきの雰囲気とは真逆。 すごく静かで落ち着く。 ふぅ、と一息ついた時、屋上の重たい扉が開いた。 「……っ、やはり、ここにいましたか」 『骸……』 「犬と千種に由夜が学校に来たと聞きまして」 『………』 息を切らして走って来た様子の骸は"僕もサボってしまいました"と笑う。 その笑顔が妙に苛々して仕方がない。 『だからって、別に屋上に来なくていいんだけど』 「まぁ、いいじゃないですか」 『隣に座らないで』 「教室では、いつも隣でしょう?」 『……』 「…失礼しますね」 『………』 私が喋らなくなったからか、骸は隣に腰を下ろした。 いつもならペラペラ喋り出すのに、今日はやたらと大人しい骸。 私は話すことはせず黙って本を開いた。 「………あの」 『……』 「由夜……」 『………何?』 「何かありました?機嫌が悪いようですが…」 『…別に。何もない。』 「そうですか、なら別にいいのですが」 『それより教室に戻りなよ。休み時間は女子が来るんでしょ』 「あぁ、少し騒がしかったでしょうか、すみません」 『少し所じゃなかった。無駄に群れないで。』 「……、それはつまり」 『…何?』 「嫉妬、ですかね?」 『………は?』 「あぁ、そうですか、嫉妬して機嫌が悪かったんですね…!!僕には由夜がいるんですから貰う訳ないでしょう?」 『………』 「……なんて、冗談ですよ。」 『…ー…ッ』 「……、由夜…?」 『あんたはどうして、いつも自分の都合の良い方に解釈が出来るのよ…っ!!』 「ですから冗談だと……、あぁ、ですが後者は事実ですよ。僕は君以外のチョコを受け取る気はありません。」 『な……っ』 「それと、ですね……、僕は嫉妬してますよ」 『……!?』 「僕より先に犬と千種にチョコレートを渡したでしょう…?」 引き寄せられて肩を固定される。 顎をくいっと持たれて視線を無理に合わされて逸らせない。 「僕にはチョコレートないのですか?」 『………』 「……由夜」 『な、何で私のなんか…っ』 「君からのチョコレートが一番、欲しいんです……」 『……っ肩、離し、て』 「離しません」 『…〜…っ!!』 「……!!」 私はとっさにトンファーを取り出して顎を突き上げるように殴った。 距離が近かったからなのか分からないけれど、無駄に息苦しくて早鐘の心臓。 それを抑えるように深呼吸して、私は話を続けた。 『わ、私はただ、群れないでって言ってるだけだから。嫉妬なんてする訳ないでしょ…!!』 「さすが、ツンデレラ…!!」 『もう、その劇のネタを引っ張らないでよ…!!』 今度は思いっきり振り下げて骸にトンファー攻撃。 当たるかと思いきや、骸はとっさに反応して避けたため空振り。 『……チッ』 「きょ、今日は何故、そんなムキに殺ろうとしてるんですか…っ!?今、本気で殺る目をしてましたよ!?」 『あんたが変な事ばかり言うからでしょ…!!もう今日は近寄らないでよ…っ!!』 「そんな…!!それではチョコが…っ!!」 『……っ』 私は鞄から骸用のチョコレートを取り出して乱暴に骸の元へ投げた。 だけど、骸は簡単にチョコレートをキャッチする。 あぁ、何で上手くキャッチするのよ…!! 今日は何故か骸が何かする度、苛々して仕方がない。 「え…、こ、これは……」 『チョコレート。言っておくけど、この指輪のお礼だから。』 「あ…、ちょっ、由夜…!!どこに行くんですか…!?」 『帰る……っ』 あぁ、もう!今日は調子が狂う、イライラする。 私は屋上を出て一体どこに行こうとしてるのか。 とりあえず骸の傍にいるのが嫌で飛び出して来ちゃったけど。 今日は学校にいたくない。 だからと言って町に行く気にもなれない。 帰るのも何だか嫌だし、どうしよう。 *** 「で、何で由夜がここにいる訳?草壁、僕にもコーヒー」 「はい、ただ今」 「学校、サボったの?」 『……結果的にそうなった』 「僕としては嬉しいけど、学校をサボるのはだめだよ、由夜」 『……ごめん』 「今日だけは特別に許してあげる。」 『…ありがと』 「でも、なんでサボったんだい?」 『それは、その…』 「まさか、六道骸に何かされたんじゃ…」 『………』 「ちょっと、否定してよ。あいつと何かあったなら今すぐにでも黒曜を潰すよ」 『…いや、別に何かされたって訳じゃない』 「……ないけど、六道骸絡みって事?」 『……う、ん?』 「曖昧だね」 『私にもよく、分からない。…今日はここに居させて』 「…いいよ、もちろん」 胸の奥がもやもやしたバレンタインデー。 ホワイトデーでは千種君達からお返しを貰ったけど、骸からは受け取る気にならなかった。 結局はいつものノリでプレゼントは強制的に私の手元に来たけど、まだ開けずに引き出しに眠ってる。 開けなければ、いつもの騒がしい日常が続くんじゃないか、そう思ったから。 end 2009/02/14 |