王子はツンデレラを一目見るなり、その美しさに心を奪われ目が放せなくなりました。

誰にも見向きもしなかった王子でしたがツンデレラをダンスへと誘います。
王子はツンデレラに近づき、その華奢な手をとりました。




「僕とワルツを踊っていただけませんか、麗しの姫」

『……はい』



いつもならば手を握る事さえ、躊躇ってしまうのに魔法がかかった今夜は違います。
二人の舞うワルツは周りが羨む事さえ出来ない程、それはそれは美しいワルツでした。




「本当に貴女は美しい、この時間が永遠に続けばいいのに…」

『王子様……私も、同じ気持ちです(恥ずかしいセリフよく言えるわね、まったく)』

「クフフ…(あぁ、幸せすぎて死にそうです…!!)」



ですが夢のような幸せな時間は長くは続きません。
気付けば二つの針が重なる直前になっていました。




『いけない!私、もう……!』

「そんな、僕はもっと貴女と…っ」

『ごめんなさい…っ』



王子の手を振り払い走り出すツンデレラ。
鐘の音が鳴り出した時、硝子の靴を片方、落としてしまいました。




『あ…っ』

「待ってください…!!」

『……っ』



鐘が鳴り終われば魔法は解ける。
王子にみすぼらしい姿を見せる訳にはいきません。
硝子の靴を片方だけ残し、ツンデレラは去りました。

数日後、夢みたいな時が忘れられないツンデレラ、それは王子も同じでした。
彼女の残した硝子の靴を見つめては美しい心を持った娘が忘れられず、ため息を零す日々が続いていました。




「…あの娘はどこの誰なんだろうか」

「……見つかりません」

「もう一度、会いたい。…いや、僕と共に生きて欲しい。」

「王子、手がかりは…」

「この硝子の靴だけ……、そうだ…」



ツンデレラを探すため、王子はツンデレラの唯一の手がかり、硝子の靴を町中の娘に履かせます。

何と、この硝子の靴のサイズにぴったりと合った者を妃として迎え入れると国民に告げたのです。

こうして、あの日から忘れられないツンデレラを探していました。
そして王子はもちろん、町外れに住んでいるツンデレラの家にも訪れました。




「だめ、私じゃ大きすぎる…」

「もう、玉の輿のチャンスなのに!」

「他に娘は…?」

「あんた、相変わらず影が薄いわねー、まぁ、今はどうでもいっか。」

「……M・M、余計なお世話。…他に娘は居ないのかと言っている。」

「はいはい、いるわよー、ツンデレラ、いらっしゃい」

『お母様、呼びましたか』

「ほら、履いてみなさい」

「ツンデレラ…履いて…?」

『私に合う訳ないわ…』

「ねぇ、履いてみてよ。町の娘、君で最後なんだ」

『貴方は王子様……、って、え……!?』

「……!?」

「な………」

「何で…?」

「あら、骸ちゃんじゃない訳?」



ちょっ、何で恭兄が王子になってるの!?

骸は?骸はどうしたの!?
長ったらしい劇がやっと終わるのに恭兄のせいで先がまったく読めなくなっちゃったじゃない!!

というか散々、自分の劇で暴れたんだから静かにしてなさいよ…!!



「さぁ、早く…」

『……っ』



は、履けばいいのよね?
もう、いい。この際、劇さえ終われば何でもいい。

何で恭兄が王子になっているのか、なんて些細な事は気にしてられない。



『…ー…っ』

「……」



魔法がかかっていないはずなのに、ツンデレラは素直に硝子の靴を履く事が出来ました。

ツンデレラの足にピッタリの硝子の靴。
足元でキラキラと輝いている硝子の靴を見て王子はツンデレラを愛おしそうに見つめます。




『…王子、様』

「やっと見つけた、君だったんだね」

『王子様……って!王子様、近いです、離れて』

「いいでしょ、ツンデレラ…」

『何で抱き締めるのよ…!!』

「いいじゃない、盛り上がってるよ………する?」

『何を』

「キス」

『…っ何、馬鹿な事を言ってんのよ!!』

「ワォ、暴れないでよ、劇が台無しになるよ…」

『……っ!!』



こうしてツンデレラは王子様のプロポーズを受け継母、継姉と共にお城で何、不自由なく幸せに暮らしました。

以前と一つ変わった事と言えば、魔法などなくともツンデレラが前よりずっと素直になった事です。

それは勿論、愛する人たちの前でだけ。

めでたしめで
「どこがめでたしですかぁぁぁぁ!!」



『え……っ!?』



キスをしようと近づいてくる恭兄を全力で拒否しながら劇の終わりを告げる幕が下りていく時、突如、会場に響いた声。
そして派手な音を立て、舞台に出て来たのは骸。

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