演目が決まり、練習して二週間後、ついに本番。 今は並盛の連中が劇の真っ最中。 黒曜の劇も色々おかしい。 だけど並盛の劇も同じくらいにおかしい。 何なの、このはちゃめちゃっぷりは。 演目はヘンゼルとグレーテルなんだけど元のストーリーは完全無視。 恭兄なんて途中で沢田綱吉や獄寺隼人、山本武をトンファーで攻撃しちゃってるし。 そんな恭兄に沢田綱吉はひぃひぃ言って怖がっているのは恐らく演技ではない。本気だ。 アドリブが多過ぎじゃないかな。 一体、どこからどこまでが台本通りなんだろうか。 『やっと終わった、並盛の劇…』 「雲雀恭弥、やりたい放題ですね。同じチームでなくてよかったです」 『まぁね、恭兄と一緒だったら間違いなく劇にならない』 「しかも舞台から由夜に視線を送ってましたよ、まぁ、僕も同じ立場だったらやりますが。間違いなく。」 『……そろそろ私らの番じゃない?』 「む、無視ですか……!まぁ、いいでしょう、僕らの仲を雲雀恭弥に見せ付けてやりましょうね、由夜」 何だかんだ並盛の演劇は園児達には人気だったみたい。 トンファー、ダイナマイト、刀にボクシング。 アクション満載で男の子を中心に盛り上がっていた。 『……』 私達は舞台裏へ移動して準備を始める。 私はシンデレラ…じゃなく、ツンデレラのぼろぼろの衣装を着て舞台の真ん中で、幕が上がるのを待つ。 緊張はしないけど、どうも落ち着かない。 『………』 ブザーが鳴り幕が上がると練習通り中央にスタンバイしている私にスポットライトが当たる。 眩しい、そう思いながら台本通り床を雑巾かけをした。 ……あぁ、なんで私がこんな事。 この先、絶対にしない。 演劇なんて絶対にしない。 昔々ある所にツンデレラという、それはもう可愛くて可愛くて、大変、美しい少女がおりました。 彼女は大好きな優しい継母、継姉達と暮らしていましたがツンデレラは、その名の通りツンデレです。 大好きな家族達に中々、素直になれず打ち解けられない日々が続いていました。 「ツンデレラ、掃除なんてしなくていいのよ」 『……』 「それにいつまでも、そんなボロボロの洋服を着てないで着替えなさい」 『お姉様、私は好きで掃除をしているだけよ。』 「でも……」 『別に不衛生でお姉様やお母様のお体を壊したら……だなんて思ってないから』 「あぁ、ツンデレラ…っ!!」 『………』 何なの、この劇。 面白みが感じられないけれど、それでも園児達が真剣に見ているから、やるっきゃない。 ちなみにナレーションと継姉はクローム。 女の子らしいクロームにはフリルのドレスが似合っていて可愛い。 『……』 でも、何で私、セリフを言っただけなのに抱きつかれなきゃいけないの。 練習の時は何もなかったのに、いきなりアドリブを入れないで…!! どうすればいいのか分からず、とりあえず抱きつかれたままでいると舞台袖に骸が親指立ててカンペを出している。 "見事なツンツンっぷりです!萌えます" 親指立ててそんな事を言われても嬉しくないわよ。 練習の時から思ってて、あえて口に出さなかった。 だけど、あぁ、やっぱり嫌だ。ツンデレラなんて。 「ちょっと、私の事を放って何してるのよ、ツンデレラ。」 『あ…、お母様…』 「あーあ…、どうして私がこんな芝居に出なきゃいけないのよ」 『……』 「まぁ、骸ちゃんってばギャラをくれたからいいけどね。さぁ、ツンデレラ、今夜は舞踏会に行くわよ」 『舞踏会……』 「そうよ、貴女のドレスも用意したから着替えなさい。」 「ツンデレラ、早く行きましょう?王子様のお姿を拝見、出来るかもしれないわ」 『私は行きたくないです。お母様達だけで楽しんで来てください』 継母役の女の子、黒曜にこんな子いたっけ? 見かけた事がない女の子は私同様に演劇に不満があるようでブツブツと呟いている。 お金で雇ったらしいけど骸の事を「骸ちゃん」って呼んでいるし親しげ。 一体、どういう関係なんだろうか。 口に出してませんがツンデレラが舞踏会に行きたいと思っている事を継母や継姉は知っていました。 だからこそ、こうして誘っているのですかツンデレラは頑なに断ります。 継母と継姉は気が乗らないながらもツンデレラの強い希望により二人で舞踏会へ。 一人残ったツンデレラは窓から月夜に照らされるお城を見て、ため息を零しました。 『あぁ、どうして素直になれないんだろう……』 本当はお母様達と舞踏会に行きたかった。 綺麗なドレスを着てみたかった。 一人の時間は素直になれるツンデレラは小さく呟きました。 その言葉は唯一の友人である、黄色い小鳥だけが聞いていました。 ≪ミードリータナビクー♪≫ 『……!』 ≪ナーミモリーノー♪≫ 『………』 ヒバード、劇中は歌っちゃダメだってば……!! しかも並盛中の校歌を歌っちゃってるし……あぁ、もう!魔法使い、早く来なさいよ! こんな格好で恥かしいセリフを言うなんて我慢の限界。 今すぐ劇をぶち壊したいくらいなのに、登場が遅れて劇が長引くなんて嫌だ。 「ツンデレラ、泣くのはやめるのれ…っす!!」 『あ……』 「……ッ」 裾の長い自分の衣装を踏んで転んでしまった犬。 会場からは園児の笑い声がくすくすと聞こえた。 犬は演技で転んだ訳ではなく、予想外のアクシデントに本気で痛がっている。 「…ー…て!!こんな裾が長い衣装うざったいびょん!!」 『……あなたは誰なの?』 「あぁ?あーッ!そうだそうだ、オレは魔法使いだびょん!」 『……』 だめだ、一人称は「私」設定なのにかなり柄の悪い魔法使いになってる。 だけど、もういいや。さっさと進めよう。 終わって勝てれば、もういい。 諦めが肝心だと最近つくづく思う。 『それで、魔法使いが何か…?』 「お前、舞踏会に行きたいだろ?馬車にドレス、ガラスの靴もやるびょん!」 『……私、舞踏会なんて行きたくないです』 「素直になれって!身なりを整えてやる。それともう一つ、とっておきの魔法をかけてやるびょん」 呪文を唱える魔法使い。 するとボロボロの服は綺麗なドレスへ変わり足元にはドレスに負けないくらい輝いてる硝子の靴。 外を見ると立派な馬車がツンデレラを待っています。 『何で、こんな事を……?』 「魔法使いは頑張ってる奴の味方なんだ」 『嬉しい…、ありがとう……、あれ…?』 自分の口から素直に出た感謝の言葉に驚きを隠せないツンデレラ。 魔法使いが杖をもう一振りすると、ツンデレラは一瞬でキラキラ輝く馬車の中へと移動しました。 「お前にかけた魔法は二つ、身なりの魔法ともう一つは「素直になれる」魔法だびょん」 『素直になれる魔法…?』 だから素直に言葉が出たの? ツンデレラは馬車の中から魔法使いを見て、もう一度、ありがとうと感謝の言葉を心から伝えました。 「ただし、0時までだからな!城の鐘が鳴りやめば魔法は解ける」 『はい!分かりました、0時ですね』 日付が変わる0時までの魔法。 胸にしっかりと刻み、場所は変わって煌びやかな舞踏会。 そこへ、やって来たツンデレラは皆の注目の的となりました。 はぁ、もうやだ。 よりによって王子は骸だし、この後は踊らないといけないし。 早く終わらないかな。 ぼーっと立っているとナレーションがどんどんと進んで行き、ついに王子との出会いの場面へとなった。 |