勢いで演劇をやると言ったけど、まともな劇になる気がしない。
だって、骸が張り切っているんだもの。



「劇の内容は童話と指定されています。オリジナリティをプラスしても構わないそうです」

『オリジナリティ?』

「所謂、パロディというものでも構わないという事でしょう」

「はい、はーい!何れ童話なんれすかー?」

「アルコバレーノが言うには表向きは幼稚園で催すボランティアの劇だから、と言ってましたね」

「めんどい」

『めんどい…』

「そこの無気力二人組、真面目に考えてください」

『…骸は何か案はあるの?』

「クフフ、よくぞ聞いてくれました、これをどうぞ」

「何れすか、それ。」

「台本ですよ。さぁ、この中から選んでください」



数冊の台本。
童話なんて久しぶりだ。

懐かしい。
昔、よく見てたっけ。
眠れない夜は恭兄に読んでもらった事もあったような気がする。



『えっと、…これは赤ずきんの台本、か』

「由夜が赤ずきん、僕が狼で決定ですね!クフフ、いただきます…!」

『却下。』

「……骸様が狼ならオレは猟師で。」

「千種!僕を撃ち殺す気ですか!!」

「いえ…」

「そうですよね、演劇と言えど千種が僕に銃を向けるなんて」

「これで一発……」



心なしか千種君の眼鏡がキラリと光った気がした。
千種君は眼鏡を指先でくいっと上げるとヨーヨーを取り出す。



「ど、毒殺ですか…!!銃殺よりもエグイ殺し方する猟師なんて教育上よろしくないですよ!!」

『……』



さっき「いただきます」発言してた奴が何を言うか。
呆れてものが言えず、さっきから黙っている犬を見ればムスッとしながら台本に目を通していた。



『どうしたの、犬』

「他はばぁさん役か母親役しかねぇじゃん!出番、少ねぇし嫌らびょん!!」



意外と、やる気満々なのね、犬。
犬が母親役やおばあさん役だなんて似合わない。

犬のワイルドな外見こそ狼役にピッタリだと思うけれど骸は譲らないだろうし違う物語を選んだ方が良さそう。

私はおもむろに他のものより少し薄い台本を手に取った。



『この台本、やたらと薄いわね』

「おや、それに目を付けましたか、さぁ、読んでください」

『……』



目を輝かせる骸。
そんな骸を見て私はこの台本を見なかった事にして元の場所へと戻す。
骸オススメなんて絶対に何かあるもの。



「手に取ったんですからちゃんと見て下さいよ、由夜」

『……』

「由夜…」

『…分かったわよ』

「………」



一度、戻した台本の表紙には「マッチ売りの少女」とタイトルが書かれていた。

何だ、普通の台本じゃない。
これだったら王子とか出て来なかったはずだし楽かも。台本も薄いしね。

期待をしながら一ページ目をめくる。



『………却下』

「何故ですか…!」

『マッチを買ってください、君ごと頂きましょうか、なんて話じゃないでしょ!!』

「安心してください。もちろん少女は由夜でマッチごと由夜を買い取るセレブは僕です」

『配役に問題がある訳じゃなくてストーリーに問題があるのよ!しかも、何でセレブ設定なのよ!!』

「……チッ」



舌打ちしないでよ、骸…!!
やる気ある訳!?

幼稚園児対象なのに変なネタを入れないでよ、まったく。



「でしたら残りは人魚姫、白雪姫、不思議の国のアリス……」

「それは、どれもキャラクターが多い上、設定上、無理があるのでは…」

『やりやすい劇の方がいいんだけど…』

「僕は由夜がコスプレして、尚且つ僕と絡みがある美味しい劇であれば……と、もちろん、勝つのは前提ですよ?」

『……』

「由夜を並盛に渡す訳にはいきません」

『………』



微笑み私の手を握る骸。
骸の後ろには花が咲いたような雰囲気で千種君と犬は眉をピクッとさせて引いている。



『それじゃ、残りはこの一冊………あ、シンデレラ?』

「シンデレラならオレ、魔法使いがいいびょん!!」

『……犬も乗り気だしシンデレラでいいんじゃない?』

「残ったのは、これしかないしね…」

「…本当にこれでいいんですか?」

『どうしたの、骸…』

「………これ、シンデレラではなくンデレラなんですよ」

『え………』



無難に赤ずきんに決まると思い、後のものは悪ふざけでシナリオを書いてみたんですよね、僕が。と困ったように笑う骸。

やっぱり他のものにしようと思っても、全然、決まらず時間は過ぎていく。
残された時間はなく選択の余地はもうない。

若干、納得は出来ないものの、演目と配役が決まってしまった。



演目:ツンデレラ
監督・脚本:骸
ツンデレラ:由夜
王子:骸
側近:千種君
魔法使い:犬



継母達や他のキャラは知り合いからキャストを引っ張ってきて、私がシンデレラもとい、ツンデレラ。
純粋にシンデレラが好きな方、ごめんなさい、と、平謝りするしかない演劇になりそうだ。



「大丈夫です、役作りなんてせず、ありのままの由夜でいれば劇は成り立ちます」

『ツンデレじゃないから、私』

「まったくデレの部分はいつになったら見せてくれるんですかね…!!」

『人の話、聞きなさいよ』

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