別に遅刻しても私としてはいいんだけど、骸が煩い。
だからなるべく早く学校に行こう。

そんな事をぼんやりと考えながら携帯の電源をつけたら何通ものメールを受信した。
送ってきた相手はもちろん、骸。

返信する暇なんてない、メールを無視して学校に向かう。
というか私、骸にメールアドレスを教えたっけ?

……深く考えない事にしよう。



『……』



教室の扉、静かに開けるつもりでも遅れて来たから注目の的になってしまうだろう。
そう思っていたのに辺りを見ると、いつもの三人組以外のクラスメイトはいなかった。

あぁ、そういえば一限は移動教室だったっけ…?
直接、移動教室の方に向かえば災難を回避、出来たかもしれないのに。
だめだな、朝は頭が上手く働かない。



「おはようございます」

「おっせーびょん!!」

「……おはよう」

『…おはよう、移動しなかったの?』

「由夜を待っていたのですよ、クフフフフ」

『……』



怪しい笑みを浮かべてコツコツと歩み寄ってくる骸。
私は骸が近寄って来た分だけ後ろへ下がる。

骸の様子がおかしい。
いつも可笑しいけど「クフフ」の「フ」がやたらと多いのが気になって警戒してしまう。
もしかして、また朝から下らない事を考えてたんじゃないでしょうね?



「…これでは距離が縮まらないじゃないですか」

『話すだけなのに必要以上に近寄らないで』

「……、お願いがあるんです」

『な、何よ…』

「………」

『……!!』



隙あり!と言わんばかりに私の両手をぎゅうっと握る骸。
離してと言っても強く握って離さない。

もちろん純粋に力では骸には敵うはずがなく手は握られたまま。



『…っこれじゃトンファー出せない!!』

「先手必勝ですよ。さぁ、僕の願いを聞いて頂けますね…」

『手を握る訳が分からないんだけど…!!』

「こうして握っておけばトンファーは出せませんし、逃げられないでしょう?」

『く……っ』

「図星ですか」



真剣な瞳の骸。
何なのよ、お願いって。

千種君と犬は呆れたように席についている。
骸の行動には慣れてしまっているようで自分には関係ないようにマイペースを突き通してる。



『早く言いなさい。お願いって何なのよ』

「よくぞ聞いてくれました、演劇をやりましょう」

『やだ』

「即答ですか!!」



だって、意味が分からない。
文化祭でもないのに、何で演劇なんだろう。

面倒だけど手伝いくらいならしてもいいんだけど。



『そろそろ手を離して…』

「嫌ですよ、Yesと言ってくれるまで離しません。」

『……っ最悪!!』

「……それにしても柔らかい手ですね、やはり僕の手とは違います」

『な……っ』



骸の大きな手の中にすっぽり包まれている私の手

恥かしいと思うけれど、それ以上にベタベタ触ってきて気持ち悪い…!!
離してもらうには演劇に出るしかなさそうだ。

諦めも肝心という事なのね。



『……分かった』

「おや、演劇に出てくれる気になりましたか」

『脇役なら出……』

「何を言ってるんですか、由夜はヒロインに決まってます」

『無理。私、演技なんて出来ないし』

「まぁまぁ、そういう事は脚本を見てからにしてください」

『……、まぁ、見るだけなら』

「クフフ、それでは、こちらに来て下さい」



片手は繋いだまま席へと連れて行かれた。
やっぱり演劇に出ると首を縦に振らないと離さないつもりらしい。



『手……』

「言ったでしょう?OKして頂けるなら離します。」

『……はぁ。大体、何で演劇なのよ』

「アルコバレーノからの誘いなんですよ」

『アルコバレーノ?何それ?』

「以前、並盛で会ったスーツの赤ん坊ですよ」

『……あぁ、あの赤ん坊』

「並盛と黒曜で演劇対決、勝者側は敗者側に何でも命じられるそうです」

『………』

「クフフ、このチャンスは逃しません」

『……』



何を考えてるか分からないけど確実に、ろくでもない事に違いない。

並盛vs黒曜、か。
まさか恭兄がこんなイベントに参加する訳ないと思うけど嫌な予感がする。

そう考えていると、静かな教室に響く並盛校歌。
これは恭兄専用の携帯着信音。ちなみに歌っているのはヒバードだ。



『もしもし…』

≪やぁ、六道骸から聞いたかい?≫

『……聞いたって何を?』

≪演劇なんて下らないとは思ったんだけどね、赤ん坊の提案に乗ったよ≫

『………え?』



嫌な予感は的中。
恭兄の声がいつもよりも弾んでいて機嫌がいい。

下らないとは思うんだったら提案に乗らないで欲しいんだけど、恭兄。
まったく、あの赤ん坊は一体、何を考えているの。



≪並盛が勝ったら由夜を並中に転校させるから≫

『……は?』

≪風紀委員に入ってもらうよ≫

『…………』



クスッと笑って恭兄は電話を切った。

え……?黒曜が負けたら私が並中に転校…?
恭兄や風紀委員は諦めもつく。

だけど、問題は沢田綱吉達だ。
あんな、のほほんとした奴らと同じ学校…!?



『骸……』

「おや、由夜、どうしました?そんなに強く僕の手を握りしめ……っ、ちょっ、強すぎです、痛いですよ…!!」

『……絶対に並盛に勝つわよ』

「そのやる気は一体どうしたんですか!?」

『黒曜が負けたら恭兄は私を並中に転校させるって。』

「……!?」

『冗談じゃないわよ、何で私が…』

「ひゃー!ぜってー負けないびょん!!」

「……だね、めんどいけど負けない」

「クフフ、雲雀恭弥に負ける訳にはいきません、僕らが勝ったら黒曜に雲雀恭弥を近づけさせません…!!」



こうして並盛vs黒曜の演劇対決が始まった。
一番、楽しんでいるのは間違いなく、あの赤ん坊だろう。

演劇をやる。
そうと決まれば骸は無駄に張り切り打ち合わせ。

一体、何をするつもりなのか。
演劇は学園祭でやった気がするけど私は一切、関わらなかったからよく分からない。



「それでは、演目を決めましょうか」

『………演目』



演目を決める。
その一言はツイてない一日の火蓋を切るには十分すぎる言葉だった。

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