「由夜、後ろを向いてはだめだよ…」 『は?何で…?』 「とにかくだめ。この場から離れよう。」 『……?』 「……」 全く意味が分からない。 周りがカップルだらけで恭兄は機嫌でも損ねたのか。 そうだとしたら、もっと前から苛々してると思うのに。 不思議に思っていると、後ろから聞こえた声によって全てが理解が出来た。 「お客様、指輪をお探しですか?」 「えぇ、恋人へのプレゼントと思いましてね、」 「クリスマスですものね、きっとお喜びになられますよ」 「そうですかね」 「えぇ、もちろんですよ。プレゼント用でしたら、こちらの指輪がおススメです、本日入荷したばかりで…」 「それでは、それを見せて頂けますか」 「はい、少々お待ちくだい」 ワーォ、何か聞き慣れた声が後ろから聞こえる。 しかも、やたらと弾んだ声で店員と話してるんだけど。 というか恋人? あいつ、恋人いる訳? あの変態、私にセクハラまがいな変態行動の数々をしてきたくせに恋人いたの? 「由夜……?」 『………』 「由夜、どうしたんだい?」 『え…?何……!?』 「そんな顔して、そんなに六道骸が不快かい?だったら今すぐにでも咬み殺してきてあげるよ」 『…っい、いいよ!もう行こう!』 今、骸に会いたくない。 店を後にしようと恭兄の腕を引っ張る。 だけど、骸に見つかってしまったようで声をかけられてしまった。 「由夜」 『な…!!あんた、気がついて…』 「僕が由夜に気付かないとでも?クハハ、見くびらないで頂けますか」 「威張れる事じゃないでしょ、君はここで咬み殺す」 「おやおや、雲雀恭弥、君には用はありません。さぁ、由夜……」 『……っ!?』 骸は私の手をスッと握って薬指に指輪をはめた。 恭兄とは反対で緋色の石がついたシンプルな指輪だった。 「クフフ、やはり由夜に似合いますね。僕の見立てに間違いはないです」 『ちょ…っ!何、勝手に指輪をはめてるの…っ!!』 「ちょっと、六道骸」 「サイズもぴったりですね、クフフ…」 骸は満足気に微笑むと店員に今、私にはめた指輪をこのまま購入すると話してる。 会計が済んだのか、私達の元へと戻ってきた。 「さぁ、せっかくですし、そのまま指輪をつけていてくださいね。」 『何なのよ、この指輪…』 「クリスマスですしプレゼントを、と思いまして」 『だったら、さっさと彼女に渡しに行きなさいよ』 「はい?」 『さっき、恋人に渡すって言ってたの聞こえてたのよ』 「六道骸、由夜には僕が贈った指輪で十分だから」 「何を言ってるんですか、僕の恋人を言えば由夜に決まっているでしょう?」 『私がいつあんたの恋人になったのよ…!!』 「まぁまぁ、落ち着いてください。大体、兄から貰うより僕からプレゼントの方が良いに決まってます」 「聞き捨てならないね…咬み殺すよ」 二人して睨み合い、店内がざわめく。 骸、恋人いなかったんだ? というか、また勝手に私を脳内恋人にしてた訳!? それはそれでムカつく…っ、…と、あれ? 私、さっきまで何でムカついてたんだっけ? 骸に恋人が出来たって思って、それで… 『……っ!!』 「由夜、少し待っててよ」 『え…?あぁ、恭兄、待って…!』 こんな所でトンファー出さないで! そう睨みをきかせれば、恭兄は気づいたようで取り出そうとしていたトンファーを引っ込めた。 店内で戦闘なんて、せっかくのクリスマスイブなのに迷惑極まりないもの。 「おや、今日はトンファーを出さないのですか?」 「由夜がここで騒ぎ起こすなってアイコンタクトしたからね。君には分からなかっただろうけど」 「由夜……」 『な、何よ…』 「ねぇ、僕の話、聞きなよ」 骸は何故か感激しているようでキラキラとした瞳で私を見つめる。 恭兄も私もドン引きだ。 というか今の行動に感激する場所があった? 「それは、つまり"やめて!私の骸を傷つけないで!!"という事ですよね」 『恭兄、やっちゃって』 「言われなくても」 「……ッ!!」 「まったく、どうしたら、そんな解釈が出来るのか不思議だよ。」 「クフフ…ッ、よくも殴ってくれましたね…!!男に殴られても嬉しくありませんよ…!!」 「殴られて嬉しい奴なんていないでしょ」 「いますよ!ここに!由夜に殴られるのであれば喜んで!!」 『………』 え…、何なの、その「さぁ、殴ってください」と言わんばかりの顔。 嫌なんだけど。すっごく嫌なんだけど。 トンファー出したくないって思ったの生まれて初めてだ。 恭兄を見れば、いつでも表情を崩さない人なのに目に見えて引いているのが分かる。 「変態って君のためにある言葉だね…」 「雲雀恭弥、君に殴られるもの変態と呼ばれるのは不快です、不愉快なんですよ。」 『……』 「………」 「僕を殴っていいのも変態と言っていいのも罵っていいのも由夜だけなんです…!!」 呆れたように恭兄を見れば、そっと頭を撫でられた。 何だか兄らしい行動にホッとする。 「僕の妹を危ない道に引き込まないでよ」 「危ない道?兄×妹よりも至ってノーマルな道ですよ」 いや、普通じゃないわよ、骸。 女に殴られて罵られて喜ぶ男のどこがノーマルなのよ。 ドMもいいところよ。 「兄妹は禁忌と言う名の媚薬だよ。分かってないね、六道骸」 「な…っ!!」 『………』 恭兄にホッとしたのはほんの一瞬。 うん、私の考えは甘かった。 何なの、この勝ち誇ったような恭兄と負けた!みたいにガクリとなってる骸は。 どっちも訳分からないんだけど不愉快な事を言ってるのだけは分かる。 私はため息を吐いてトンファーを取り出した。 『ねぇ、骸、恭兄……』 「はい、なんですか、由夜」 「どうしたの、由夜…」 『いい加減にしなさい……ッ!!』 「……っ!!」 「……!!」 トンファーで二人に攻撃。 さすがに吹っ飛ばすほどの勢いじゃ店内では迷惑だから、いつもよりもずっと軽い攻撃。 「さすが、由夜……っ、いい攻撃だよ…」 「クフフ…ッさすがに二発目の攻撃は効きます…っ」 『二人とも店内で迷惑。静かにしなさい。』 私も十分に騒いでしまったけどね。 フラフラしてる、二人。 ふと、トンファーを握る手を見ると先程、骸がはめた指輪がキラリと光って存在を主張していた。 『………ねぇ、骸』 「な、なんですか、由夜…」 『……本当に、私に?』 「…えぇ、もちろんですよ」 『……』 ふわりと微笑む骸。 変態マシンガントークをしていた奴とは別人みたい。 妙に恥かしくなってしまい、私は視線を逸らした。 「由夜…何を血迷った事…」 『…だって、元はといえば指輪が原因でしょ?』 「……」 それに「指輪」として使うわけじゃないから。 私は首に下げてたネックレスのチェーンに二つの指輪を通してつけた。 『二人ともありがと。』 「……!」 「…由夜」 『恭兄……、先、行くから。』 「…ちょっ、由夜」 プレゼントを貰ったのは数えるられる程だから照れくさい。 そんな顔を見せたくなくて足早にジュエリーショップを出た。 『……』 外は寒いのに心は温かい。 骸からプレゼントされた指輪の色のようになっているんじゃないかってくらい、顔が熱く感じる。 胸元にある指輪を見て、周りを見ると町を歩く幸せそうなカップルがどこか羨ましく見えた。 『………』 さっき、私は何で骸に恋人がいたと勘違いして苛々したのか。 何でいなかった事にほっとしたんだろう。 この気持ちは何? こんな気持ち初めてで知らない。 理解が出来ない。 理解が出来ないから知りたいとも思う。 けれど、このまま知りたくないとも思ってる。 『……』 骸の微笑んだ顔。 頭から離れなくて、困る。 end 2008/12/05 |