「さぁ、見てください、千種」 「………はぁ」 逃げることは出来ず仕方なく骸様の隣に腰を下ろしてモニターを見る。 そこには先ほどは本棚が映っていたのにベッドを映っていた。 「……」 骸様、真剣に見すぎて気持ち悪い。 こんな真面目な顔、久しぶりだ。 以前、並盛狩りをした時以来じゃないだろうか。 「ベッドにいるようですね。艶のある黒髪はもしかしなくても由夜が眠っているのでは…!」 「………」 「クフフ、もう少ししたら、これは僕の朝の視界に違いありません、クフフ…!!」 「……骸、様」 「何ですか?」 「この隠しカメラ、何故、動いているんですか?」 「バーズの鳥の内蔵ビデオカメラだからですよ。」 「……だからバーズが」 「クフフ、由夜の柔らかな黒髪がこんなに近くに……あぁ、もう少し寝顔が…!!」 「………」 一羽の小鳥に託されている骸様の運命。 この人にオレ達の運命と命も預けて大丈夫なんだろうか。 「……はぁ。」 とりあえず、今度、由夜に鳥を貸してもらおう。 めんどいけど仕方がない。 どこについているのか分からないけど取り外すしかない。 「……もう少し!!お願いですから、もう少しずれてください…!!」 「……」 骸様、煩い。 放っておいていいのかな、犬はまだ寝てるんだろうか。 オレ一人に任せないでよ、こんな鼻息荒くして盗撮を楽しんでいる骸様を。 「……っ動きが止まってしまいました。一緒に眠ってしまったのでしょうか。」 「………」 「僕がバーズの鳥に憑依すればいいんでしょうが鳥ではさすがに不便ですよねぇ」 「…………」 「せめて猫、犬……」 また、めんどい事を言い出した。 次から次からどうしてこう、面倒な事を思いつくのか。 以前とは、また違う真剣さだからこそ性質が悪い。 「それにしても由夜も中々起きませんね…まぁ、そんな所も可愛いですが。」 「……」 「新婚生活の朝はきっと……」 「由夜、起きてください」 『もう、ちょっ、と…』 「クフフ、早く起きないとお仕置きですよ…」 『や……、骸、昨晩だって…』 「昨晩は昨晩です。…ねぇ、早く起きてください」 『…ー…やだ』 「おやおや、仕方ありませんね、由夜…」 『……』 「お仕置き、されたいのですか」 「…と口では少し怖がらせつつ、由夜の額に優しくキスするんですよ…!」 「……」 やめて。 妄想、止めてください。 骸様の周りの空気はピンクなのにオレの周りはずんと青くなっている事に気が付かないんですか。 大体、そんな事を由夜にしたならトンファーが飛んでくる事、間違いないだろう。 骸様が気絶して一緒に二度寝するのがオチだ。 「………」 「クフフ、そしてキスをしたら由夜はくすぐったそうにするけれど、それでも起きないんです」 「……」 「僕は朝の穏やかな日差しの中、そんな彼女を見て微笑んで幸せを噛み締めてることでしょうね…!!」 「……」 「我慢出来ずに眠ってる由夜に朝から淫らな悪戯をしてしまったり……」 まだ妄想、続くんですか……? オレ、本当に骸様についていっていいんだろうか。 このままじゃ復讐者だけではなく日本警察にも追われる身になりそうなんだけど……。 そもそも寝顔、正しくは眠ってるであろう、由夜の頭だけで付き合ってる訳でもなく、何故、新婚の朝まで妄想、出来るんだろうか。 オレはきっと生涯、骸様の思考回路を理解できない。 否、理解したくない。 「千種、ちゃんと聞いていますか?」 「………はい」 骸様は妄想をしては悶えてる。 そして、オレはめんどいと思いつつも、この場にぼーっとしている事、約一時間。 ようやくモニターに動きが現れた。 「骸様、起きたみたいです…」 「……!」 「………」 さっきまで何を言っても聞かなかった骸様はピタリと妄想を止めて画面に目を映す。 その真剣さを他に生かすとかすればいいのに。 「ん……、ワォ、一緒に眠ってたのかい…?」 ≪ヒバリッヒバリッオハヨウッ!!オソイッ≫ 「おはよう……」 ≪ヒバリッヒバリッゴハンッゴハンッチョーダイッ≫ 「由夜に貰わなかったのかい…?」 ≪ネテルッユウヤモネテルッ≫ 「まったく、仕方ないね……起こしに行こうか」 ≪オコスッオコスッユウヤヲオコスッ≫ ブチッ!! どうやら今まで見ていた画面の主は雲雀恭弥だったようで骸様は即座に三叉槍で回線を切った。 そしてガクッと影を背負って骸様はソファーへと座り込む。 「………」 「……骸、様」 「……何も言わないでください、千種」 「………」 「こんなに上手く行くはずがないと思ってましたよ…」 「……」 「ですが、また雲雀恭弥ですか…!!こう何度も雲雀恭弥に一人萌えていたなんて自分が恥かしいですよ…!!」 「………」 羞恥心っていうものが骸様もあったのか。 今までの行動は、もう恥かしいの域をとっくに超えてる気がするんだけど。 そんなこんなで黒曜ヘルシーセンターに骸様の声が木霊していた。 「あぁ、今から起こしに行くであろう雲雀恭弥が羨ましいです…!!」 「………」 「パジャマがずれて際どい所が見えていたり……!!」 「……」 雲雀恭弥とは契約済みなんだから憑依すればいいのに。 なんて言葉は心の奥底にしまっておいた。 これ以上、面倒なことに話を広げたくない。 「……はぁ」 こんな休日、もう二度とありませんように。 心の底から初めて神様に願った日。 end 2008/09/05 |