「骸様、おはようございます…」

「あぁ、千種、起きましたか、おはようございます。今朝は少し遅かったですね」

「……」



オレの気配に気付いて振り向いた骸様。
時計を見れば九時を過ぎた所だった。
あぁ、骸様の言う通り、いつもよりも遅い。



「すみません……」

「いえ、いいんですよ、休みの日くらいゆっくりしてくれても。犬なんて、まだ寝てますしね」

「……」



呆れたように笑う骸様。
あぁ、これは由夜と出会う前の骸様だ。

由夜が絡まなければ、こんなにも正常な人だったんだと改めて思った。



「………」



以前は由夜を暇つぶしに使っていたみたいだけれど、花見以降、様子が変わっていた。
由夜を呼び捨てで呼んでいるし、彼女に向ける雰囲気も柔らかくなった。

まぁ、様子が変わるのは初めてじゃないし、基本的にオレに害がなければ、それでいい。
それに、今回のものは骸様にとっていい変化だと思う。



「千種、何か失礼な事を考えてませんか?」

「…いえ、別に。それより骸様、誰と話してたんですか…?」

「おや、聞こえていましたか。朝からいい事を思い付きまして来て頂いたのですよ」

「……?」

「ほら、懐かしいでしょう」

「ウジュ、お邪魔してますよ、千種さん…」

「…生きてたんだ」

「失礼ですね、ウジュジュ…」



骸様と話していたのは日曜の朝から見るには不相応な人物、バーズだった。
以前と変わらない気色悪い笑みを浮かべている。

骸様を見れば本当に上機嫌。
オレは骸様の機嫌に比例するかのように憂鬱になる。

いつものように黙っていれば骸様とバーズが中断させていた話を再開させた。

様子から見て悪巧みに違いないだろう。



「…で、実際の所はどうなんですか?」

「ウジュ、今、調整していたら音声は聴き取りづらいですが画質はバッチリでしたよ」

「クフフ、そうですか……ならば話しは早いです」

「……」



真面目な話…?
すっかり忘れていたけどマフィア殲滅への計画を立てていたんだろうか。
骸様の事だから、てっきり、マフィア殲滅とは程遠いろくでもない事を企んでいるのかと思っていたのに。



「今の僕なら以前の依頼の倍額、払っても構いませんよ」

「ウジュジュジュ、六道さんもお好きですねぇ。いいでしょう、マニュアルは先ほど教えた通りですが…」

「クハハハ、後は彼の行動次第、という訳ですね」

「………」



訂正。
嫌な予感する。

どうして、今日に限ってオレ視点の話なんだろう。
めんどい事をしないで欲しい。
オレは目立たなくて構わないんだから。



「それでは、私はこの辺でおいとまします。骸さん、健闘を祈ります、ウジュジュ…」

「えぇ、僕はこのチャンスを逃しませんよ、クフフフフ…」

「………」

「クフフ、千種…"これ"が何か知りたいですか?」

「いえ、オレは朝食を作りに…」

「そうですか、聞きたいですか!」

「………」

「そんなに聞きたいのであれば教えてあげましょう、クフフ…」

「………めんどい」

「何か言いましたか、千種」

「…いえ。」

「では、画面を見てください」

「………」



ノートパソコンに映されたのは本棚。
廃墟の黒曜センター内ではない事は間違いない。

大方、どこかに設置したカメラから送られてくる映像だろう。



「どこですか、ここ…」

「雲雀家の一室ですよ」

「犯罪ですよ、骸様」

「何を言ってるんですか、千種。」

「……」

「犯罪も何も脱獄囚ではありませんか。」

「………」

「死刑まで決まっていた僕ですよ?これくらい今更ですよ、クフフ…、クハハハ……ッ!!」

「……」



オレが慣れないツッコミを入れても骸様は怯む事なく話を進める。
ここぞとばかりに開き直った骸様のテンションはうざい事この上ない。

…………めんどい。
だけど、もう「めんどい」と口にするのさえ骸様の前だとめんどい。

由夜、ごめん。
オレにはどうすることも出来ないから早くカメラに気づいて破壊して。

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