屋台から離れ袋の中を見ると五本のチョコバナナ。 そもそも甘いものは苦手。 こんなにたくさんもらっても困るだけだ。 『本当、変な人…』 「…おぅおぅ、そこのねぇちゃん、暇そうだな」 『………』 「お、おい!無視すんじゃねぇびょん!」 『馬鹿な事をしてるからよ、犬』 「うっせ!つーか!山本武なんかと何を喋ってたんだよ!」 『別に。チョコバナナを貰っただけ。犬、食べる?』 「……」 『食べないの?』 「…仕方ねぇから貰ってやるびょん」 一本差し出せば、ツンとしながら受け取った犬。 ここに犬がいるって事は、あいつもいるのよね。 どうせ、この後はいつものパターンが来るに違いない。 突然、絡まれるならいっそさっさと出会っておいた方が幾分かマシだ。 『…で、骸達はどこにいる訳?』 「……ッ」 『どうしたのよ』 「む…」 『……?』 「骸さん達はー…」 『……あぁ、そっか。犬、迷子になってたんだ。ごめん。』 「…っ違うびょん!はぐれたんら!」 ちょっとよそ見したら骸さん達がいなくなっただけだびょん、と呟いた犬。 それを迷子になったって言うんじゃないのかな。 恥ずかしいのかツンとしてそっぽを向いている犬。 意外とすぐ近くに骸達がいるんじゃないかと思い辺りを見回すと案の定、見慣れた三人組が姿を発見した。 「骸様、いました…」 「おや、どこにです?」 「そこです、目の前に」 「……!骸さん!」 人込みを掻き分けてやって来たのは浴衣姿の骸と千種君とクローム。 こちらを見ると嬉しそうな笑みを見せた。 『……』 骸達、心配して迷子になっていた犬を探してたんだ。 煩くなるけど犬が合流、出来てよかった。 「…っ骸さん!!」 『………』 「由夜!探しましたよ!」 『え…?』 「由夜に会えてよかった…」 「……由夜」 『ちょっ、三人とも……』 「んなーっ!?」 骸さん!と駆け寄った犬を見事にスルーして三人は私の元へ。 すっかり行き場を無くしてしまった犬は固まってしまい、わなわなと震えている。 「…っむ、骸さん!!」 「由夜、浴衣、とても似合ってますよ…」 『ちょっと、犬が…』 「特にうなじがたまりません。浴衣とは素晴らしいものですね、クフフ…」 『咬み殺してあげる』 浴衣からサッとトンファーを取り出して構える。 だけど骸は少し距離を置いただけで防御も何もせず私をジッと見ていた。 『随分と余裕ね、祭りだからって殴るのをやめないわよ』 「激しく動くと浴衣が乱れますよ」 『……着付けられるから平気』 「だめです。トンファーは閉まってください、由夜」 『……』 「それに……」 『……?』 「浴衣が乱れた由夜を見た日には咬み殺される、ではなく生殺しですよ」 『は…?』 「だってそうでしょう?浴衣から覗く由夜の白い肌…、見たいけれど見た日には我慢が出来なくなります」 『骸、本当、あんたって…っ!!』 「由夜、落ちついて…、骸様は放っておいて私と一緒にお祭り回ろう…?」 『…クローム』 「だめ…?」 『……まぁ、いいけど』 「クローム、何を言ってるんですか!」 「たまには女の子同士で遊びたいです、骸様…」 「……なっ」 『…皆で遊べばいいでしょ』 「本当ですか?夏祭りでデートなんて夢みたいですよ」 『ど、どこがデートよ…』 「骸様、この後はどこに行くんです…?」 「クフフ、そうですね、もう少しで花火の時間ですから移動しましょうか」 『花火……』 花火……か。 まぁ、花火は嫌いじゃないから別にいいけど。 ……あれ?何かが頭に引っかかる。 何か大切なことを忘れてるような…? クロームに千種に骸…… 『あ……』 「…っ骸さんも柿ピーも髑髏も由夜も…っ!!オレを忘れてるんじゃねぇびょん!!」 「おや?犬、そんな所にいたんですか」 「犬、見つかってよかった……すごく心配してたの」 「めんどい…」 「ぜ、ぜってぇ心配してないびょん…!!」 「すみません、犬、本当に…」 「んなっ!骸さんが謝ることじゃないれす!」 「僕には浴衣姿の由夜しか目に入りませんでした」 「んなーっ!?つーか、オレを探してたんじゃないんれすかっ!?」 「最初は探してたけど…」 「途中でボスに会って由夜がいたって聞いたから…」 「目的がすっかり変わってしまいました」 『……』 「………」 犬が哀れでならない。 じっと見てたら、そんな目で見るなと言う目で睨まれた。 「だーっ!もういい!気を取り直して屋台を回るびょん!」 「また迷子になるよ…」 「うっせ!迷子じゃねぇびょん!おら、髑髏!お前も来い!」 「えっ、ちょっ、犬…っ」 「……クロームまで迷子にさせる気?」 「犬、もう少しゆっくり楽しみましょう。」 『……』 先程と何一つ変わらない煩いけど騒がしい雰囲気。 だけど今は「嫌」じゃない。 さっきは一人で回る方がよかったとか思ってたのにね。 |