人込みは苦手というより嫌い。 だけど恭兄が静かな場所で花火を見ようって言うから来た。 恭兄がショバ代を収拾の間、祭りを見て回っているんだけど、私の傍には常に草壁さんがついていた。 何で草壁さんと二人きりでいなきゃいけないのか。 中学生とは思えない体格に風貌、そしてリーゼント。 周りの人達が避けてくれるのは正直ありがたいけど目立って仕方がない。 こうなるなら一人で回るって言わずに恭兄についていけばよかった。 『ねぇ、草壁さん』 「何ですか、由夜さん」 『一人で大丈夫なんだけど』 「いいえ、恭さんに任されましたので」 『……』 「いいですか、由夜さん、恭さんが見回りの間、この草壁が必ず守ります」 『はぁ…』 「祭りに浮かれた輩もいます、由夜さんに何かあっては恭さんに合わす顔がありません」 『………』 この際、傍にいる事は諦めた。 だけど煩いのよね、一人でペチャクチャと喋って。 私が相槌しなくても話が進んで、まるで独り言。 これなら私がいなくなっても、ばれないような気がする。 「それにしても暑いですね…」 『……そうね』 「…ー…があるんですね」 『………(今のうち…)』 「……、あれ…?由夜さん?由夜さーん!?」 『……』 「ハ…っ!まさか、はぐれた……!?」 『………』 「あぁ、由夜さーん!!どこにいるんですかぁぁーっ!!」 『……ばれた。…逃げよう』 「由夜さぁぁぁん!!」 私の名を叫ぶ草壁さん。 必死になって探してくれる草壁さんに悪いけれど歩くスピードを落とし人込みに紛れる。 人込みに押されすっかり前の方に移動した草壁さん。 私を探してきょろきょろと見回しているからか左右に機敏に動くリーゼントが見えた。 似たような浴衣を着ている子もいるし、これなら早々、見つからない。 仮に近くに来たなら、あれだけ目立つリーゼントだし大丈夫でしょ。 見つかる前に逃げて隠れることが出来る。 『はぁ……、やっと一人になれた…』 カランコロンと下駄の音を鳴らし歩く。 煩い雰囲気は慣れなくて無駄に疲れるけど、下駄の音が心地よく響いて癒してくれる。 どこに行こうか、そう思ってた時、屋台から声が聞こえた。 「よっ!由夜じゃねぇか!」 「ゲ…ッ、てめぇは雲雀の…」 「ひぃぃ、妹さん!?山本ってば何で普通に話かけられるのー!?」 『あ……』 声をかけてきたのは以前、並盛中に行った時に出会った沢田綱吉たち。 屋台から出て来た山本武は馴れ馴れしく話かける。 後ろの二人は忙しそうに屋台の接客中なのに、こちらに来て大丈夫なんだろうか。 「浴衣、すっげ似合ってんのな!」 『……どうも』 「なぁなぁ、一人なのか?」 『後で待ち合わせてる』 「へぇ……。あっ!だったらチョコバナナを持ってくか?」 『え?』 「待ってろよ、すぐ持ってくるから」 私の肩をポンと叩いて山本武は屋台へ戻り、袋に商品を詰め始めた。 よく見てなかったけど、沢田綱吉たちが出しているのはチョコバナナの屋台。 道理でチョコレートの甘い匂いがする訳ね。 「んなっ、山本!何してやがるっ!」 「まーまー、いいじゃねぇか。売れ残ったらもったいねぇし」 「ま、まぁ…、早くチョコバナナがなくなれば花火を見に行けるしね」 「わりぃな、ツナ!」 「いいよ、いいよ!由夜さんにはこの前、迷惑かけちゃったし」 「だよな!」 山本武は人懐っこい笑顔で袋に何本かのチョコバナナを詰めて戻って来た。 後ろで沢田綱吉が口に合うか分からないけど、と言って、ははっと笑っている。 「ほら、これ」 『いらない』 「気にすんなって!」 『別に気にしてなんか…』 「遠慮せずに持ってけって!ほら!」 『あ……』 「それじゃ、オレは屋台に戻るな!ナンパされるなよー」 『ナンパなんてされないわよ』 「気をつけろよ!」 『……はいはい』 「じゃあな!」 ひらひらと手を振って山本武は爽やかな笑顔で屋台に戻っていった。 |