「クフフ、由夜、今年も同じクラスで嬉しいですよ」 『……』 「やはり運命の糸で結ばれてるんですね」 『ありえない……』 千種君と犬が同じクラスなのはまったく問題ない。 問題なのは学年が上がったのにも関わらず、同じクラスで私の隣の席に当たり前のように座っている、六道骸だ。 「…由夜、大丈夫?」 『千種君…』 「ん?」 『クラスはもう諦めた。』 「……そう」 『だけど、何で私の隣の席が骸なの……!?』 普通、クラス替えした直後は出席番号順で座るものでしょう? 何で千種君に犬、骸に私、不自然に席が窓際後方に固まってるのよ。 そりゃ、全然、知らない人が隣に来るよりもマシと言えばマシだけど。 『…何でこうなるのよ』 「んなの決まってるだろ、骸さんの努力の結晶ら!」 『努力の結晶?』 「犬、それは秘密だと言ったでしょう?」 「ぎゃん!詳しい事は言ってないれすよ!?」 「同じ事です。」 『……どういう事?』 「由夜が知ったら咬み殺されるので言いません。」 『……』 「今では咬み殺されるのも快感になりつつあるのですがね、こればかりは…」 『言わないなら無理矢理にでも、この席を自力で何とかするわよ』 「………クラス替えと聞きまして」 『聞いて?どうしたのよ』 「教員の方々を少々、脅……。いえ、意見したら快く聞き入れて頂けた、それだけですよ」 『脅したんでしょ、骸…』 「脅しただなんて、そんな。話し合いで解決しましたよ、クフフ」 『話し合いねぇ…、それって本当にー…』 ≪ミードリータナビクーナミモリノー♪≫ 「おや…?」 『あ………』 会話を遮ったのは私の携帯の着信音。 朝、遅刻しそうだったからマナーモードにするのを忘れていた。 ちなみに、この着信音は恭兄が連れて来た黄色い鳥の歌声。 「…由夜、この微妙に音程外れた着うたは何です?」 「ひゃーっ、だっさっ」 「……これ、バーズの」 『バーズ?』 「……何でもない」 『この着うた、少し前に恭兄が連れて帰って来た小鳥の歌声なのよ』 「それを着信に使うなんて可愛らしい事をするんですね」 『………』 「クフフ、本当に可愛らしい…」 『……』 …何だろう。 お花見の後から骸が少し変わった。 由夜さんと呼んでいたけれど、今では呼び捨て。 そして、何よりも変わったのは笑みだ。 妖しい笑みから、やたらと気色悪いやらしい笑みになった気がする。 「クフフ…」 『……』 変化が気になるものの、変なのは普段と変わらないから私は気にせず放置プレイで携帯を取り出す。 どうせ、この後はいつものパターンで余計な妄想をするに違いない。 聞いたら殴ってしまいそうだし、苛々してしまうもの。 スルーするのが一番いいと最近、学んだ。 「由夜が歌を覚えさせたんですか?」 『……』 「そんな姿を想像すると萌えますよ」 『………』 「その小鳥が羨ましいです」 ほら、やっぱり。 少し前の私なら、このセリフで殴っていると思うのに慣れって恐ろしい。 『妄想しないで。歌を覚えさせたのは私じゃない』 「おや?それでは一体、誰が?恥ずかしがらず誤魔化さないでいいのですよ」 『この着うたは並盛中の校歌なのよ、並中の校歌を私がわざわざ覚えさせる訳ないでしょ』 「……まさか」 『校歌を一から覚えさせたのも専用の着信音に設定したのも全部、恭兄だから』 「……!!」 そう言うと骸はピシッと音を立ててフリーズした。 今、殴ったら崩れて砂になり、風に乗って飛んでいってくれそうだ。 「千種、犬…」 「……はい」 「なんれすか、骸さん」 「歌を覚えさせたのも設定にしたのも、雲雀恭弥……」 「そうみたいれすねー、それがどうしたんれすか?」 「……つまり僕は一人、雲雀恭弥に萌えていた、という事になりません?これでは僕はただの痛い奴じゃないですか!」 「……骸様、もう十分過ぎる程、痛いです」 「…というか、もしかしなくても電話の相手は雲雀恭弥ですか!」 「む、骸さん…っ(柿ピーの話、聞いてねぇし!)」 「……、…めんどい」 「あぁ、僕も是非、僕専用の着信にして欲しいです…!何だったら今すぐ録音しましょうか!それがいいです!」 「……、良くないですよ、骸様」 「言葉は何にしましょう?"クフフ…メールですよ"ですかね。でしたら、電話の場合は……」 あぁ、もう、ブツブツブツブツ煩いな。 トンファーを片手に冷めた目で骸を睨んでも黙ってくれない。 骸の止まらない妄想は電話をかけてきた恭兄にも聞こえているみたいだった。 ≪由夜、遠くで変態ストーカーの声が聞こえるけど。≫ 『うん、いるわよ、すぐ傍にね。』 ≪学年が上がってクラス替えだったんでしょ?≫ 『そう、クラス替えだった…けど』 ≪もしかして、また同じクラスかい≫ 『……クラス替えを仕組んだみたい』 ≪ワォ、咬み殺してやりたいな≫ 『それは私も思ってた。とりあえず、それは置いといて用件は何?』 ≪あぁ、その事なんだけどさ。由夜、僕のトンファーと間違えてないかい≫ 『…え?』 恭兄の言葉を聞いて、さっき骸を殴ろうと取り出したトンファーを見る。 何で気付かなかったのか。 ズシッと重みがあり私の手に馴染んでいない。 これは間違いなく恭兄のトンファー。 昨日の夜、私がまとめて手入れした時に眠かったから間違えたみたい。 『……ごめん、使うでしょ?今から並盛に行くよ』 ≪…授業は大丈夫なのかい?≫ 『うん、HRだけだから。変態から逃げられて丁度いい』 ≪そう…、それじゃ頼むよ。今すぐ逃げておいで≫ 『了解』 横目で骸を見ると一人で真剣な顔で妄想をしているから今のうちに抜けだそう。 静かに話を聞いてる犬と千種君には悪いけどね。 妄想だだ漏れの骸に気付かれないように、そっと抜け出して並盛中へと向かった。 |