警戒しつつも振り向くと、そこには息を切らした女の子。
私達を見てホッとして寄ってくる。



「千種、犬……いた。骸様も…」

「ゲッ……」

「……」

『あなた…』

「あ…っ、由夜も一緒……」

『クローム髑髏…』

「覚えてて、くれたの…?」

『そりゃあ…』



忘れたくても忘れられないわよね。
挨拶で頬にされて六道骸を思いっきり殴った女の子、クローム髑髏。

髪型も六道骸と同じだし、印象が強すぎる。



「嬉しい…」

『クローム髑髏、あなたも座ったら?』

「ありがと……、ねぇ、由夜」

『何?』

「クロームでいい、から」

『…?あぁ、呼び名のこと?』

「…うん」

『それじゃ、クロームって呼ぶ』

「……、…うん!」

「おい、ブス女!由夜から離れろびょんっ」

『可愛いじゃない、クローム。』

「馴れ馴れしいんだよ!」

「由夜、このお弁当、由夜が作ったの…?」

『そうだけど。クロームも食べる?』

「いいの?」

『減った方が助かる』

「……っ!無視すんじゃねー!!」



騒がしい犬を放って千種君もクロームも食事を始める。
ムカムカとしている犬は荒々しく座ってお弁当に手をつけ始めた。

クロームに相手にされなかったから、やけ食いしているみたい。



「犬、もう少し落ち着いて食べたら?由夜の料理ばかり、がっついて食べなくても…」

「腹が空いてるからいいだろ!それに別にこいつの弁当ばかり食べてねぇっつの!ダメガネっ!」

「犬、明日の朝食も抜きだから」

「んな……っ!」

「……由夜の作った卵焼き、おいしい」

『普通だと思うけど』



みんな落ち着いて食べてるけど後ろでは、ガンとかシャキとかクフフとかお花見に合わない非日常的な音が聞こえてくる。
食事する気が失せているのは私だけだろうか。



『………』

「由夜、どうしたの?食べないの…?」

『後ろが落ち着かなくてね』

「骸様、本気だせば、雲の人を何とか出来るはずなのに」

『そんなに強いの?…というか雲の人って?』

「雲のリングの人だから。多分、倒せると思う。でも、由夜のお兄さん、なんでしょう…?」

『一応、そうだけど…』

「…だから、かな。あまり攻撃していないのは」

『………』



クロームが言っている雲のリングって恭兄がしてる指輪の事?
そういえば、ディーノも雲の刻印のついた指輪がどうとか話してたっけ。



『……』



まぁ、それはよく分からないから首を突っ込むのは止めておこう。
問題は私の後ろで繰り広げられている戦闘だ。
これも出来れば放っておきたいけど、こんな雰囲気でお花見なんて絶対に嫌。

……仕方ない。
私はスッと立ち上がり恭兄と六道骸の元へ行く。



『二人とも』

「由夜は下がってなよ。」

「由夜さん、危険ですよ、離れていてください。」

『煩い』

「今すぐ、静かにさせるよ」



今は一時的に戦闘を中断している二人。
だけど、話が終わったら戦闘を続ける気でいる。

私は、そんな二人におむすびを口元へと持っていき、煩い口を塞いだ。



「……!?」

「……っ!!」

『…せっかくのお花見なんだから戦うのやめて。』

「由夜、それじゃあ、花見の場所を変えようか」

『荷物を片付けて移動するの面倒。ここでいい。』

「まさか、六道骸と一緒に花見をしろと?」

『たまには我慢して。私も我慢するから。』

「………随分と酷い言われようですね。」

『文句があるなら他に行って』

「……ありません、けど。」

『…何?』

「怖くないのですか?」

『……何が?』



控えめに怖くないのか、と聞く六道骸。
聞き返すと驚いたように私を見つめている。
そして、俯いて息を吐くと、いつものようにクフフと笑った。



「…雲雀恭弥がいるのが腑に落ちませんが、お言葉に甘えてご一緒させて頂きます。」

「由夜、本当にいいのかい?こいつが一緒で。桜を見に来たんだよ、パイナップルを見に来た訳じゃない」

「地獄の底へ突き落としますよ、雲雀恭弥…」

『……そんなに言われるの嫌なら髪形を変えればいいのに。』

「僕なりのこだわりがあるんですよ」

『へぇ…』



確かにこだわりがない限り、その髪型にしないだろうな。
マジマジと髪型を見ていると六道骸はこほんと咳払いをした。



「失礼ですよ」

『普段の六道骸に比べたら失礼のうちに入らない。』

「……」

『ほら、行くわよ。千種君達が待ってる』

「…そう、ですね」



お花見の席へと戻り、腰を下ろす。
先ほどのように私の隣には恭兄。
そして、もう片側にはクロームがちょこんと座っている。

その様子を見て六道骸は面白くなさそうにポツンと佇んでいた。



「………クローム、席を譲りなさい。」

「…何でですか?」

「…クローム。」

「……、分かりました」

『えっ、ちょっと、クローム……』

「隣、失礼します、由夜さん」

『………』

「あぁ、照れなくていいですよ?」

『照れてないから』

「クフフ、そういう事にしておきましょう。それにしても……」

『……何よ』

「由夜さん、料理、お上手なんですね。美味しいです。」

『なっ!何で勝手に食べてるのよ…!』

「おや、犬達は食べているのに僕はいけませんか?」

『べ、別に、構わない、…けど。』



微妙に六道骸だと腹立つというか何と言うか。
しかも今日はまだ、変態発言らしい発言はないし。
私自身、まだ一度も殴ってないからか調子が狂う。



「……」

『……はぁ』



ふと、犬と千種君を見ればおかずの取り合いをしている。
犬が一方的にだけどおかずを勝ち取り、誇らしげな顔。
そんな犬に千種君が仕返していた。

クロームは静かにサンドウィッチをもぐもぐと食べて、犬達を見ては和やかにクスッと微笑んでる。
でも、それはクロームに限ったことじゃない。

隣に座る、六道骸も穏やかに微笑んでいた。
見た事がない微笑み。

これがきっと、本当の笑みなんだろう。

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