リビングに行きテーブルを見ると、そこにはきちんとお茶が用意されていた。 ディーノを見ると唖然としている。 「きょ、恭弥が用意したのか…?」 「そうだけど?君のために由夜がお茶の用意をする必要ない」 「………」 『恭兄、そのために自分が……?』 「……」 『ますますおかしい。…いや、いつもは家に上がらせる自体がおかしいけど』 「…お前は誰だ?」 「何のことだい」 『……?』 「恭弥はオレの事を"君"なんて呼ばねぇ。」 「……それだけで誰だ?なんて失礼だよ。」 「咬み殺すって言わねぇのか」 「……ばれているのに今更、演技をするのもおかしいでしょう」 『……?』 意味が分からない。まったく話が読めない。 何なの、この会話? ディーノが真面目だし恭兄も口調が変わったし。 二人とも最高にミスマッチで違和感がある。 『ねぇ、恭兄じゃないってどういう事?』 「身体は恭弥のもんだが、精神は別の奴なんだ。」 『……?』 「ジャッポーネでいうと憑依と言ったところか」 『は…?』 「そいつは仲間と共に脱獄したと連絡が入っていたがまさか、こんな所にいるとはな」 話についていけない。 とりあえず、恭兄の身体の中に他の誰かが入っているって事? 脱獄、つまりは犯罪者。 憑依だなんて出来るのは幽霊? …いや、幽霊を牢になんて閉じ込める事なんて出来ないわよね。 だったら特殊な人間? でも、そんな特殊な人間と恭兄が関わりを持つものだろうか。 『……』 持つわね。 確実に「咬み殺す」と自分から関わったに違いない。 身体を乗っ取る事が出来るなんて、それだけヤバイ人間なんだろう。 現に張り詰めている緊張した空間に私は息がつまりそうだった。 「目的は何なんだ?」 「目的、ですか。クフフ、そんなの一つに決まってます。」 クフフ…!? 『……って!あんたなの、骸!!』 「ナイスツッコミです、由夜さん。やはり愛し合ってるもの同士、どんな姿でも分かってくれるものですね。」 『あんたが脱獄囚!?というか何で恭兄の身体を乗っ取ってんのよ!』 「おやおや、少々、言葉遣いが荒いですよ」 『荒くもなるわよ…!!』 殴りたい、咬み殺したい、今すぐトンファーでその頭を殴りたい…!! あぁ、でも、今の六道骸は恭兄の身体。 どうする事も出来ずに私は六道骸の出方を待つしかない。 「由夜さんとの甘い生活を体験してみたくなったもので」 『甘くないから!はぐらかさないで…!!』 「新婚さん、みたいでしたね。」 『話を聞きなさいよ、六道骸!』 「聞いていますよ。ところで先日、プレゼントした鞭ですが…」 『また、そのネタ!?いい加減に飽きたわよ。』 「今回で鞭ネタは終わりにします」 『だったら聞いてあげる、何よ』 「貴女に鞭を仕込んだのは一体、誰なんです?」 話を長引かせても仕方がないから私は素直に答える。 仕込んだという言い方はどうかと思うけど、早く元の恭兄に戻って欲しいもの。 『……ディーノ』 「なるほど、この跳ね馬ディーノが貴女に鞭を……」 「恭弥の家庭教師の合間に少しな。それより、オレからも質問いいか」 「何でしょう?」 「………お前ら一体どういう関係だ?」 「恋人同士です」 『偶然、クラスが一緒になって偶然、隣の席になっただけ。』 「………二人の関係が一瞬にして見えたぜ」 「そうでしょう」 『でしょうね』 それにしても、どうしたら恭兄の身体から出て行ってくれるんだろう。 六道骸を見つめるとにっこりと微笑みを返す骸in恭兄。 「……六道骸、その身体で笑うのはちょっと控えてくれねぇか?落ち着かなくてよ」 「クフフ、そうですね。ですが、こうでもしないと雲雀恭弥の笑顔なんて後生、見れたものじゃないですよ?」 「まぁ、それはそうだけどよ。つか、そろそろ出て行ってくれ。由夜の前で争いはしたくねぇ。」 「おや、僕を復讐者に引き渡さないのですか?」 「今のお前、由夜が傍にいるなら悪巧みしねぇだろ。」 「……」 「だけど、もしもまたオレの弟分に手出ししたら…分かってんな?」 「それはもちろん。ボンゴレはまだ泳がせておきますよ。由夜さんで一杯一杯なもので」 「へぇ、えらく素直だな。由夜の手前、お前も戦いたくねぇのか」 「………」 「少しは変わったようだな、お前」 「……、変わるも何も僕はいつでも僕でしかありませんよ。」 「自覚してねぇならそれでもいいけどよ。…まぁ、今はそう言っとけ。」 復讐者とかよく分からない事ばかり。 でも、今の会話で一つだけ理解した。 『……真剣な会話みたいだけど。ねぇ、ディーノ』 「何だよ、由夜」 『弟分とやらの安全のため私が六道骸の暇つぶしの相手になれって事?』 「……は?」 「…クフフ、そうとも取れますね。」 『六道骸は黙ってて。どうなのよ、ディーノ…』 「……っ!」 「…クフフ、雲行きが怪しくなって来たので僕はこの辺で」 『六道骸、あんたにも言いたいことが…っ』 「僕の分は跳ね馬に当たってくださいね」 「んなっ!?」 「あぁ、それともう一つ、跳ね馬ディーノ」 「な、何だ!?オレは今、それ所じゃ…っ」 「その気持ち、僕も痛いほど分かりますが一つ聞いてください」 「何だよ…!!」 「…僕らの話はしないよう、お願いします。」 「一応、一般人の由夜に話す訳ねぇだろ…って!落ち着け、由夜!トンファーを構えるな!」 『……一発で許す。』 「待て待て待て!ほら、恭弥が…っ」 『……!』 ディーノの言葉に恭兄を見る。 すると、ふっとこの場の嫌な雰囲気が変わり恭兄が倒れた。 六道骸が恭兄の中から出て行ったという事だろう。 『それはそれ、これはこれよ、ディーノ。覚悟して』 ジリジリと詰め寄る私。 ディーノは鞭を取り出してガードをしている。 私がトンファーを構え一歩、動いた瞬間、ディーノは足を滑らせて、こちらに転んできた。 「うわぁ!?」 『……!!』 どうして家の中で転べるのか。 支える事は出来ず二人して固く冷たい床に倒れこんだ。 『い…った……っ』 「わ、わりぃ…!!だ、大丈夫か?」 『頭ぶつけた…』 「はは、オレは顎をぶつけた……」 『大体、どうして何もない所で転ぶのよ』 「す、滑ったんだよ…、何故か!」 『………』 「本当だって!」 『分かったから、どいて』 「あ、あぁ……」 『…早く』 「悪い。で、でもよ…」 『何?』 「その…、これまた何故か手に持ってたはずの鞭が抜けて…足に絡まってて動けねぇ」 『……は?』 「……悪い。」 申し訳なさそうに謝るディーノ。 何とか逃れようと身動きすると動けば動く程、足に鞭がきつく食い込んで逆効果。 『あぁ、もう!早く離れて…!!』 「…っつってもなぁ」 「ねぇ、僕の由夜に何してるんだい」 『あ、恭兄……』 「ゲッ、きょ、恭弥……」 恭兄は私とディーノを見て眉間に深く皺を寄せて冷ややかな目で見下している。 その冷ややかな目にディーノは冷や汗。 「ま、待て、誤解だ!オレが無理矢理、由夜を押し倒した訳じゃねぇ!」 「白昼堂々、人の家に不法侵入して由夜を襲う奴の言い訳なんて聞かない」 「ふ、不法侵入……!?」 『……そういえば、ディーノを家に上げたのは六道骸だったわね』 「んなっ!?ちょ、ちょっと待て、恭弥!話を聞け!」 「やだ」 「…ー…!!」 絡まっているため鞭でトンファーを防ぐ事も、避ける事も出来なかったディーノ。 恭兄に攻撃されボロボロになったディーノはロマーリオさんに引き取られ、その後しばらくはディーノの姿は見なくなった。 結局、六道骸は何のために恭兄の身体を乗っ取っていたのか。 …まさか本当に鞭の事が気になって、ではないわよね? end 2007/04/10 |