「…起きて、由夜」

『…ー…ん』

「………」

『……?』



静かになったと思ったら頬に柔らかい感触。
これは、まさか頬にキスされた?
何するのよ、恭兄。

兄妹だから別に何とも思わないけど、くすぐったい。
逃れるように布団の中で、もぞもぞとしていると今度は頭を撫でられているのか、気持ち良い。



『…ー…っ』

「由夜……」

『……』

「…ー…可愛いです、由夜さん」

『………』

「クフフ…」



撫でる手が止まり少し遠くでドアが閉まる音がした。

あれ?
今、クフフって笑い声が聞こえなかった?

可愛いですって、言ってクフフって笑うなんて今日の恭兄、おかしい。



『……』



クフフ…!?



『…ー…っ!!』



嫌な予感が頭を過ぎってガバッと起きる。

恐らく今までの人生の中で一番、目覚めがいい。
目が覚めた私は辺りを見回すと、いつもと変わらない私の部屋だった。



『……よかった』



危ない危ない。
本当にありえない事だけど一瞬、あの言葉の主、六道骸の家に泊まってしまったのかと思った。

あれ?…という事は。
六道骸は休日の朝っぱらから犯罪行為、つまりは…



『不法侵入した、訳?』



簡単に想像がついてサァァと血の気が引いていく。

だって恭兄が六道骸を家に入れるはずないでしょ…!?
私は、最悪の事態を予想してトンファーを構えリビングへ向かった。



『………』

「由夜、朝からトンファーを持ち出してどうしたの?」

『……恭、兄?』

「おはよう、由夜」

『お…はよう、恭兄……』

「落ち着かないね。どうしたんだい?」

『……何でも、ない』

「そう。ならいいんだけど。ほら、早く着替えておいで。朝食、出来てるから」

『あ、ありがとう…』

「手伝おうか?」

『は…?』

「……と、何でもない。冷めるから早くね」

『………』



何か今、恭兄にしては違和感があるセリフを言ったような気がするけど、気のせい?

それにさっき、あの変態の声が聞こえたはずなんだけど。
もしかして夢だったのかな?

何だかんだ、傍にいる時間が多いから。



『……はぁ』



なんて不愉快な夢なんだろうか。
夢の中まで、あいつが出てくるなんて精神的に参ってるんだろうな。

あいつがいない事に安心したらお腹が空いてきた。
キッチンの方からいい匂いがするから私は着替えて朝食の席へとついた。



『ねぇ、恭兄…』

「なに?」

『…これ、恭兄が作ったの?』

「もちろん。」

『……』



目の前にはバランスのとれている食事。
恭兄が用意する食事と言えば、デリバリーがほとんどなのに明らかに出来たばかりの料理が並んでいる。

エプロンを着ている恭兄。
似合わない、そして異常なまでに違和感がある。

こんな事を始めるなんて明日は雨が降るんじゃないの?



『……恭兄、いつの間にこんな料理を覚えて』

「愛する由夜のために頑張ったんだよ、いつも任せっきりじゃ大変だろうからね」

『……熱、ある?』

「ないよ」

『……本当?』

「本当。心配してくれるのかい」



そう言って恭兄はふわりと笑った。

きょ、恭兄が笑った…!?
いつもみたいに微笑ってレベルじゃない。

人の事を言えないけれど、こんなにも笑顔が似合わない人もいるんだ。

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