『……』

「由夜…」

「由夜さん、やはり貴女には桜が似合います。…とても美しい」

「……ごめん、由夜」

『千種君、いいよ、別に謝らなくて』

「僕を無視しないでくださいよ」



私は買い物途中「奴」に見つかってしまった。
千種君とはいいとして、よりによって六道骸も一緒にいるなんて。

…千種君だけだったらこんなに気分下がらないのにね。

六道骸がいると、テンションが下がる所じゃない。



『……はぁ。』

「由夜……」

『今日は特売だからでしょ。荷物持ち居た方がいいから、六道骸が…』

「うん、犬を連れて来ようと思ったんだけど逃げられて…」

『そう…』

「由夜さん、今日は何の日かご存知ですか?」

『特売日。』

「そういう事ではないですよ」

『何かの日であっても興味ないから。』

「そういう所は雲雀恭弥にとても似ていますね。」

『どうでもいいでしょ。』

「…今日はエイプリルフールなんですよ、由夜さん」

『エイプリルフール?』



あぁ、そういえば今日の特売はエイプリルフールに因んでいたっけ?

「こんな価格、嘘みたい!エイプリルフールだけど嘘じゃない!」みたいなアオリ文が広告に大きく載っていたのを思い出す。



『……で?』

「なので、由夜さんに嘘を吐くことにします。」

『は……?』



私、六道骸はいつも嘘ばかり吐いてるイメージなんだけど。
そもそも、こういうのは嘘を吐く相手には言わないもんだと思う。



「由夜さんの事…」

『私の事?何よ?』

「その……、…大嫌い、ですよ」

『……』

「……あぁ、安心してください。もちろん、嘘ですからね?」

『出来れば嘘でなければ嬉しいんだけど。というか嘘じゃないでしょ』

「嘘に決まっているでしょう、クフフ」

『ほら、そうやって笑ってる』

「は…?」

『あんたが意味もなく笑う時は何かを隠している時よ』

「………」

『大嫌いが嘘じゃなくて嬉しい限り。』

「……っ由夜さん」

『今度は何?』

「…こういうイベントを使い、遠まわしの愛の告白もいいものでしょう?」

『取り繕うにしては遅すぎるわよ。私はあんたの玩具じゃない』

「な……っ」

『ねぇ、千種君?』

「……」

『…千種君?』



六道骸は目に見えて焦っている。

そろそろ、このまま会話しているとトンファーを出してしまいそうだから千種君に声をかけると、彼はいつも以上にぼーっとしていた。



「………告白、か」

『…どうかした?』

「……、何でもない」

「あの、由夜さん」

『何よ』

「エイプリルフールという事で、貴方も僕に嘘を吐いてください。」



六道骸は自分の話を変えたいのか、今度は私に嘘を吐けと言う。

こういうイベントには普段だったら乗らない。

だけど、いつも六道骸にからかわれているから、何か嘘でも吐いてみようかな。



『……じゃあ、一言だけ』

「…由夜?」

『たまには乗ってあげてもいいかなって。』

「………そう」



桜が咲いていて、今は気分がいい。
六道骸に"嘘"を吐くなら一つに決まってる。

嘘でも口にするのが少し……いや、かなり嫌だけど。



『六道骸』

「はい、何でしょう?」

『あなたの事、大好き』

「な……っ!?」

『世界で一番、ね。』

「…ー…ッ!」

『…それじゃ、もう行くから。じゃあね、千種君』

「……ん」



もちろん六道骸に言った大好き、なんて嘘。
まぁ、苦手なだけであって大嫌いって訳ではないけれど。

いつも好きだの愛してるだのと、からかってくる六道骸にはこういう嘘が丁度いいだろう。

そう思いながら、この場を去ろうとすると千種君が何か思い出したように私に声をかける。



「あ、由夜……」

『ん…?何?』

「オレ、由夜の事……嫌い、だから…」

『え……?』

「……エイプリルフール。たまにはオレも乗ってみた。」

『あぁ、そっか…。……じゃあ、私も千種君の事、嫌い。』

「………」



千種君は心なしか微笑んだ。
うん、やっぱり千種君は和む。

そんな彼の隣にいる六道骸と言えば珍しくぼーっとしていた。

大好きなんて嘘を吐いたらてっきり「相思相愛というものですね」とか軽く返してくると思っていたのに。

こうも静かだと調子が狂う。
私が本当に告白したみたいじゃない。

いつもよりも変な六道骸は放っておいて私は買い物のためスーパーへと向かった。



「……」

「骸様、どうしたんです?」

「………」

「骸様、……骸様!」

「……!!千種、どうしたんです、か」

「それはこっちのセリフです…」

「あ…、あぁ、すみません。まさか由夜さんが"大好き"と言うとは思わなかったもので……」

「………」

「クフフ、やっと僕の魅力に気付ー…」

「今日はエイプリルフールですよ。」

「……そうでした、ね」

「…世界一大好きと言ってましたね」

「………僕の事が世界一、大嫌いだと?」

「…ショックですか?」

「……いえ?そんな、まさか。」

「なら、いいのですが。…では、さっさと特売へ行きましょう。」

「えぇ、そうですね。…その前に千種。」

「はい…?」

「頬が赤いですよ、どうしました?」

「………」

「千種…?」

「……気のせい、ですよ」



end



2007/04/01

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