六道骸は綺麗にラッピングされた小包を持っている。
中身は何なのか、多少は気になるものの、どうにも嫌な予感しかしない。

こいつから"お詫び"の言葉が出ているから尚の事。



「貴女に似合うと思って特注の物を購入したんです」

『貰う理由がないから』

「ありますよ、先程も言いましたがお詫びです。それと…」

『……』

「愛しい恋人のために用意したのですから遠慮しないでください、ね?」

『あんた、まだ懲りてない訳?』

「クフフ……」



またクフフと笑う。
本当にこの微笑みには苛々する。

それに何でこの男は抜け抜けと彼氏面しているんだろうか。

すぐ傍に居る犬と千種君はため息を吐いて私を哀れんだ目で見ている。
余計な同情はいいから、この変態をどこかに連れてってくれないかな。



『六道骸』

「何ですか」

『一応はモテるんだから、私じゃなくてもいいでしょ。』

「………」

『他の子にプレゼントすれば?喜んで受け取るんじゃない?』

「クフフ、…そう、ですね。それでは、他の女性に差し上げる事にします。」

『……』

「……本当は貴女に、貰って頂きたかったのですが」

『……』



モテる事は否定しない六道骸。
まぁ、実際に告白する子は多いみたいだから否定したら嫌味になるだろう。

それにしても今日は聞き訳がいいから、これまでにないくらい朝が清々しいと感じる。
その気分のまま六道骸を横切り自分の席に向かう。

けれど、それは叶わずに引き止められてしまった。



「待ってください、由夜さん」

『………』

「……」



これまでにないくらい朝が清々しいと感じる、…訂正。

これまでにないくらい不愉快な朝になる予感がする。



『……離して。』

「離しません。由夜さん、ここは顔を赤らめつつ、そっぽを向いて僕に手を伸ばす所でしょう?」

『え…?』

「で、"そこまで言うなら仕方ないから貰ってあげるわよ!"と言わなければいけません、ツンデレならば!」

『………』

「王道のパターンです」

『……何を期待してたんだか知らないけどツンデレじゃないから。他の子にあげて、私は絶対に貰わないから』

「さすがのツンツンっぷりですね…!まったく、由夜さんはいつになったらデレの部分を見せてくれるんですか!」

『……デレ?』

「……そうでした、由夜さんはツンデレながら女王様なS属性でした……と、言うことは」



何やら真剣に独り言を呟いてる六道骸。
ねぇ、何でこんな男がモテるの?

今のこの姿を見てクラスメイトの女子の目にはどう映っているんだろう。
真剣にSだの女王様だの呟いてる男のどこがかっこいいと言うんだろう。

否、今の六道骸もかっこよく映っているならば眼科と耳鼻科をお勧めする。



『……』



六道骸についてクラスの女子が話しているのをよく耳にする。

優しくて紳士的。
ミステリアスな微笑みがたまらない。

そう聞くけど私には不気味で変態で人を馬鹿にしてる奴にしか見えない。



『………』

「どこまで僕を焦らして楽しんでいるんですか、由夜さん」

『……今、この状況を楽しんでいるのはあんただけよ』

「本当はこの僕がSなんですよ?」

『…Sだの何だのどうでもいいから。ねぇ、六道骸…』

「はい?」

『とりあえず、あんたが現在進行形で変態発言している事だけはよく分かった』

「な……ッ!!」



いつまでも終わらない妄想と独り言と変態発言。

終止符を打つため私はトンファーを構えて思いっきり振り上げた。
いつもよりも手ごたえのある感覚にトンファーを使った手がビリビリとした。

ヤバイ……。
力任せにやりすぎた?



「む、骸さん!!」

「骸様……」

「……っ」

『もしかして気絶した…?』

「気絶した?じゃねぇよ!お前のせいだかんな!いくら何でもやりすぎだろ!!」

『そ、そんな事、言われたって……苛々して、上手く加減出来なくて……』

「加減ってもんがあるだろうが」

『……っ、……ごめん、なさい』

「なっ!?…べ、別に怒ってるわけじゃねぇびょん!!気にすんな!」

「怒ってただろ、犬……」

「お、怒ってねぇよ!」

「……なら、いいけど。犬、骸様を保健室に寝かせておこう」

「お、おぅ。」



その後、犬と千種君は戻って来たけど六道骸は戻って来なかった。

…そんなに打ち所が悪かったのかな。
いつもなら気持ち悪いくらい早く復活するのに今日に限って何で起きてこないのよ。

自業自得だとは言え、一応はプレゼントを渡そうとしてくれていたからか罪悪感で胸が痛む。



『……調子、狂う。』



今は午前の授業が終わり昼休み。
私は中庭で一人、ぼーっと六道骸の事を考えていた。



「…ここにいたんら」

『……、犬…?』

「……ほらよ!」

『……!』



ふと後ろから聞こえた声。
振り向いたと同時に私の視界に入ったのは今朝、六道骸が持っていた小包。

犬は合図もなしに私に投げたから上手く受け取れず、額に直撃した。



『………たっ!』

「へへ、ざまーみろ」

『……投げることないでしょ』

「…骸さんの方がもっと痛かったんだぞ」

『……、…うん』

「……」



完璧に気絶させてしまったから、さすがの私も返す言葉もない。
私の隣に距離を置いて座る犬はゆっくりと話し出した。



「それ、貰ってくれよな。」

『…六道骸のプレゼント?』

「あぁ。骸さん、お前のために選んでたんだから。」

『……私のため?』

「昨日だって骸さん「喜んでくれますかね」とか言ってて、渡すのを楽しみにしてたんらぞ!」

『そう、なんだ…』

「それと、おまけでこれもやるから!骸さんの貰ってくれ!」

『……?…何、これ?』



犬から渡されたのは小さな紙袋。
中を見ると、シンプルだけれど存在感のある綺麗な緋色のヘアピンが入っていた。
何で?と問いかければ、ハッとして捲し立てた。



「つ、ついでだかんな!」

『ついで?』

「オレのヘアピンが壊れたんら!」

『あぁ…、そういえば、いつも付けてるわね』

「そうだびょん!それが壊れたから買いに行って、そしたら丁度、それを見つけて買っただけだからな!」

『犬が使えばいいのに』

「女物だろうが!」



言われてみれば、これを男の子がつけていたら違和感があるかもしれない。
綺麗な色、じっと見つめていると犬はそっぽを向いて話し出した。



「勘違いすんなよ、別に変な意味ねぇから!いつも骸さんが迷惑かけてっから…っ」

『……犬って趣味がいいんだね』

「気に入ったびょん!?」

『うん、綺麗…。』



本を読む時に目にかかって邪魔になっていた前髪。
犬から貰った緋色のヘアピンでパチンと止めた。

プレゼントって恭兄以外から貰った事がないから嬉しい、と思う。
頬が少し、綻んでいるかもしれない。



「き、気に入ったならよかったびょん…」

『ねぇ、犬…』

「な、何だよ、ついでだって言っただろ!」

『違うわよ、その……、そうじゃなくて…』

「じゃあ、なんだよ…」

『だから…、……』

「んぁ?」

『……』

「……?」

『……、ありがと、って言いたかっただけ』

「……っ!」

『……?どうしたのよ』

「…な、何でもねぇ。つか、オレのなんてどうでもいいから、骸さんのも開けてくれびょん!」

『あ……』

「ほら、早く!早く開けろびょんっ!」

『な、なんでそんなに急かすのよ…』

「オレも中身、気になってるからな」

『……中身、知らないの?』

「当たり前だろ!骸さん、一人で買い物に言ったんだから!」

『一人で……』



不安。
私の頭には、その二文字があまりにもはっきりと思い浮かび消えてくれない。

あの六道骸が一人で買い物?しかも私のために?

はたして、まともなものなんだろうか。

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