『な、なに…、近…』

「……由夜」



いくら六道骸でも、こんなに近いとドキッとしてしまう。
顎を持たれて見つめられる。

名前を低く囁かれたら心臓はまた大きく跳ねた。



「あの子とキスしたんですか…?女性同士で…?」

『は、話を聞きなさいってば』

「キス、したんでしょう…」

『…ー…っ』

「こういう風に……?」



耳元で囁く六道骸。
いつものような冗談には思えない真剣な瞳と声にゾクゾクした悪寒が走る。



『……ッ』

「由夜……」



キスされそうな、距離。
顔を俯かせて避けようとするけれど、顎を持たれてはどうしようも出来ない。

唇が重なる瞬間、ぎゅっと目を閉じたら鈍い音が聞こえ、唇は重なる事なく六道骸は倒れた。

一体、何が起きたのか。
パッと見ると、そこには去ったはずのクローム髑髏がいた。

どうやら三叉の槍で六道骸を思いっきり殴ったらしい。



『……!』

「……ッ」

「……無理やりはよくないです、骸様。……最低。」

『…聞こえてないと思うんだけど、特に最後。』

「由夜、大丈夫…?」

『大丈夫。それよりも、あなた、帰ったんじゃ……』

「由夜が心配で戻って来たの…」



何事もなくてよかった、とホッとしたように笑う彼女。
純粋に笑っているはずなのに恐怖を感じるのは初めてだ。

ついさっき、思いっきり六道骸を殴った後の微笑みだから、そう感じるのかな。



『クローム髑髏…』

「…なに?」

『……、…ありがと。』

「……!」

『……』



言い慣れない言葉を口にして顔が熱くなった。
見られたくなくて、そっぽを向いているとクローム髑髏はクスっと笑っていた。



「…由夜、気をつけてね。骸様と一緒の時はトンファーは常に構えてないと」

『……そうする。』

「………」

『…なに?』

「何で、骸様に迫られてたの…?そういう、関係?」

『な…っ!?』

「……違う?」

『…っ違う!』

「じゃあ、何で?」

『……』

「私のせい…?」

『まぁ、ね。挨拶の話をしたら急に…』

「……骸様、気付いたのかな」

『……気付いた?』

「本当の、気持ち。」

『……?』

「骸様、気付いてないから」

『…だから、何が』

「気持ち。」

『……』

「本当は……骸様に気付いて、欲しいから、幸せになって欲しい、から、由夜に会いに来たの」

『……?』

「来てよかった…」



そう言って自分が殴り倒した六道骸を見て微笑むクローム髑髏。
六道骸が倒れていなければ微笑ましいと思うんだけどね、この光景。



「由夜」

『……ん?』

「さっき、言い忘れてたの」

『何を?』

「骸様、由夜の事をツンデレって言ってた」

『それは言い忘れてもいい内容よ』

「そう?」

『そう。』

「でも、続きも聞いて…」

『……』

「骸様の方がツンデレだと思う」

『私にはどうでもいい情報なんだけど…、まぁ、いいや。それで?』

「面白いって、楽しめてるって言ってたけど、由夜の事を話してる時の骸様……いつもと違うの」

『……楽しめてるなら、いつもと様子が違うでしょうね』

「そういうんじゃ、なくて…」

『……?』

「……ここから先は、ちゃんと気付いて骸様が言わなきゃ、だめ。きっとまだ、認めないだろうけど」



悪い子ではなさそうだけど、よく分からない事を話すクローム髑髏。
もう独り言の域のような気がして私はツッコミを入れる気がなくなった。



「それじゃ、行くね」

『……待って』

「…なに?」

『あなたは六道骸とどういう関係?』

「……大切な人」

『……?』

「骸様の事、尊敬してるの。私に居場所を…存在理由をくれた人、だから」

『犬や千種君と一緒って事、ね』

「…うん。だから、従う。…もしかして私が骸様に恋愛感情を持ってるって思ったの…?」

『それは思ってない。躊躇なく殴ってたし最低って言ってたしね』

「……そう。ねぇ、由夜は骸様の事をどう思ってるの?」

『変態』

「……今は、それでいい、かな」

『……?』

「またね、由夜」



意味深な言葉を残して彼女は窓から帰って行った。
さっきも思ったんだけど普通にドアから出て行くのじゃ駄目なのかな。

下を見れば、たたたっと走る姿が見える。
私の視線に気付いたのか、彼女はこちらを振り向いてニコリと笑って小さく手を振った。

……何だ。
クフフじゃなくて、普通に笑えるじゃない。



『……不思議な子』

「…由夜、さん」

『……ッ!!』



いきなりの声で驚いたけど声の主は言うまでもなく私のすぐ下で倒れている六道骸。
まだ起き上がれないみたいで這いつくばっている。

後頭部をもろ直撃したみたいだから、まだクラクラしてるに違いない。



『復活が早いわね、六道骸』

「頭が痛い上に若干、記憶が飛んでるような気がしますがね、中々いい攻撃をします、クローム」

『そう……』



さっきの事を思い出してドキッとした。

掴まれた腕が熱く感じる。
記憶が飛んでる、という事はさっきの出来事を六道骸は覚えているんだろうか。

蒸し返したくないから、どこまで覚えているかは聞かないことにしよう。



「クフフ…」

『……何よ』

「由夜さん、白なんですね」

『白……?』

「えぇ、僕の予想は黒だと思っていたのですが…」

『黒…?』

「そうですよね、まだ中学生。少し早い気がします」

『何の話してるのよ』

「下着です」

『……ッ!?』



骸は私を見上げてる。
という事はスカートの中が骸には見える訳で……。

窓から風がふわりと入りスカートが揺れた。
スカートをパッと押さえて片手でトンファーを骸へとお見舞いした。

さっきのように今の事を忘れるくらいに力を込めて。



『…っ変態!!』

「…ー…グッ!!」

『……っ、最悪…!!』



早起きは三文の得って言うけど朝からキスされそうになるは下着を見られるは不快な事ばかりだった。

振り回されてる自分、こんなの私らしくない。
クローム髑髏が言っていた通り六道骸と一緒にいる時はトンファーは常に構える事にしよう。

そう考えながら屋上へと向かい授業が始まる少しの時間、風に吹かれて過していた。



end



2007/03/08
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