早いから教室に誰もいないだろうな。
これなら、きっと三十分くらいは静かに本を読める。

そう思っていたのにドアを開けると見慣れない女の子がいた。
私に気付くと何故か、おどおどしている。



「……っ」

『………?』



人と群れるのは苦手な私はいつも一人いる。
懲りずに近寄ってくる六道骸達以外のクラスメイトとは群れていない。

さして興味もないクラスメイト。
だけど群れてないとはいえ顔はいくらなんでも分かる。

このクラスに、こんな子いなかったはず。



「あ…っあの…」

『何か…?』

「雲雀由夜、さん…?」

『……そうだけど』

「……!」



小柄でミステリアスな雰囲気の女の子。
片目に髑髏のついた眼帯をつけていて綺麗な細工が施してある槍の先のようなものを持っている。

そして、髪型。彼女の髪型は……



「……?」

『……』



どこぞの変態を思い出させる個性的な髪型していた。



「あ、あの…っ」

『…何?』

「その……っ」

『……?』



意を決して私に話しかけた女の子。
だけど緊張しているのか、カァァと顔を赤く染めて俯いてしまった。

女の私から見ても可愛く、女の子らしい女の子だと思った。
こういう態度、男だったら…というか、どこぞの変態だったら一発KOだろう。



「あの…」

『……』

「………っ」



私の事を知っているのか。
何が目的なのか分からない。

いつまでも頬を赤くして俯いていて話が進まず、仕方ないから、こちらから質問をする事にした。



『ねぇ…』

「……っ」

『…あなたの名前は?』

「あ……、クローム…、私はクローム髑髏」

『クローム髑髏、ね』

「……」



このクラスじゃないわよね?
そう問いかければコクンと頷いた。
何が目的なのか、今度はそう問いかけると瞳が揺れて槍の先を鞄ごと抱き締めて私を見た。



「由夜に会ってみたくて来たの…」

『……意味が分からないんだけど』

「……っ、ごめんなさい」

『別に怒ってる訳じゃないから。理由を教えてくれる?』

「……!」



いつもの調子じゃ怖がらせてしまうみたい。
ただ見てるだけなのに、この子には睨まれたと思わせてしまっているような気がして困ったもの。

なるべく言葉を選んで話しかけると彼女はホッと安心したようにクフフと柔らかく笑う。
その笑みはピンポイントにどこぞの変態を連想させた。

もしかしなくても、あの変態関連の人物じゃないのか。



「話、聞いて由夜に会ってみたくなったの…」

『……』

「…だから、来ちゃった。」

『一応、聞くけど聞いたって誰に…?どんな事を吹き込まれたの?』

「……っ」

『責めてる訳でも怒ってる訳でもないから話して』

「あ…っ、その、骸様に……」

『……』



……やっぱり。
あまりに予想通りの展開に頭が痛くなってきた。



「由夜って、すごく綺麗…」

『はぁ…』

「骸様からいつも聞いてる…、凛としていて、えっと…Sで女王様…?みたいだって」

『骸に吹き込まれた事は間に受けないで』

「……?何で?」

『……』

「あと、それと……」

『それと?』

「………、面白いって、楽しめてるって言ってた」



私に慣れてきたのか先ほどよりもスムーズに話す、クローム髑髏。
面白い、楽しめてるって、やっぱり六道骸は私で遊んでるんじゃないだろうか。
よりによって何で私なのよ。

そう思うと自然にため息が零れた。
そんな私にクロームが近づいたと思ったら不意に頬に柔らかいものが触れる。



『……え』

「……どうしたの?」

『どうしたのって、何でキス……』

「挨拶」

『挨拶、って言われても……』

「そろそろ、帰る。…クフフ、由夜、またね?」

『あ……』



照れくさそうに微笑んで、ふわっと窓から飛び降り去っていったクローム髑髏。

状況が良く分からずに、ぼーっと立っていれば廊下から慌しい駆け足の音が聞こえた。
バンッと勢いよく扉を開けたのは六道骸だった。



「由夜さん…!!」

『六道骸……』

「おはようございます、今日も美しい……ではなくて!」

『…なに?』

「今、ここに髑髏の眼帯をつけた少女が来ませんでしたか!」

『来た、というより教室にいた。』

「やはりですか、連絡が来て嫌な予感がしたんですよ」

『嫌な予感ね。私に聞かれたくない話をクローム髑髏がすると思った?』

「……!」



しまった、というような顔の六道骸。

だけど、それは一瞬で、すぐに落ち着いた様子で返答した。
少しだけ、いつもの雰囲気とは違うような気がする。



「……どんな話を聞きましたか」

『いつも、あんたが私に言っているような事よ』

「ほぅ…、他には?」

『他に?…あぁ、面白い、楽しめてるって言ってたって聞いたわ』

「………」

『からかうのもいい加減にしてくれる?暇つぶしに私を使わないで』

「クフフ、からかってないですよ。貴女のおかげで有意義な時間を過しているのですから」

『暇つぶし、それは否定しないのね』

「……」



私がそう言うと再びクフフと特徴的な妖しい微笑みで誤魔化す六道骸。

六道骸のこういう所が大嫌い。
私は群れるのが苦手だけれど六道骸は人と群れるのが苦手、嫌いというよりも人間事体を嫌っているんだと思う。

忌み嫌っているけれど、わざと関わりを持って弄んでいるように思える。



『……』



人間は六道骸にとって玩具。
暇つぶしの道具としか見ていない。

人を小馬鹿にしてからかう態度。
気に食わない。苛々する。



『もう私に近づかないで』

「……」

『これから玩具で楽しめなくて残念だったわね』

「クフフ、君はお気に入りだったんですがねぇ…」

『………』

「雲雀恭弥の妹だと聞いて余計に興味を持ったんですが…」



まるで残念です、と言うように笑みを貼り付けた。
暇つぶしで誰かと関わるなんて、本当に迷惑な奴。



『……あぁ、それと。』

「何ですか?」

『あの子にも言っておいて欲しいんだけど』

「クロームですか?」

『えぇ、男だろうが女だろうが初対面の相手にキスをしない方がいいって』

「………は?」

『……?は?って何よ』

「キスとは一体…?」

『あんたが吹き込んだんじゃない訳?』

「吹き込むとは失礼な。…それより、キスとはどういう事ですか」

『そのままの意味よ』

「………」

『あぁ、言っとくけど挨拶で頬に…』

「……由夜」

『……?』

「……」

『…ー…!』



何を思ったのか、六道骸は私の身体をぐっと引き寄せる。
当たり前だけど力では六道骸の方が強くて離れられない。

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