『何よ、ジッと見て…』

「由夜さんはSとMだったらSだと思うんです。」

『……』

「そう思いませんか、千種、犬。」

「………」

「えす?いきなり何なんれすか、骸さん」



人をジロジロと見て一体、何を考えていたのかと思ってたら、こんな下らない事を考えていたのね。

突如、問いかけられた城島君はハテナマークを頭に浮かべてる。
千種君は極力、関わりたくないのか眼鏡を片手で直して、ため息を吐いていた。

そうなりたくもなる。
思っていても口に出す話題じゃないでしょ。



『千種君、変態は相手にしない方がいい』

「……ごめん」

『大丈夫、もう慣れた』

「そう……」

『……慣れた自分がすごく嫌だけど』

「……うん」



オレも、と言わんばかり静かに頷いた千種君。

六道骸といつも群れてる城島犬と柿本千種。
城島君とはそんなに話した事ないから、よく分からないけど変態発言ばかりの六道骸とは違うと思う。

とりあえず、間違いなく千種君は常識はあると思う。



「由夜……」

『何?』

「犬が……」

『城島君がどうかしたのよ』

「………」

『……?』



珍しく自分から話しかけて来た千種君。
千種君が言った通り城島君を見ると真剣に六道骸と話している。

あぁ、どうせ、ろくでもない事を話しているんだろうな、と想像がつく。



『……』

「………」

「……ですから、由夜さんは」

「だからSって何れすか?」

「そういう事です。」



……どういう事よ。
城島君に何を吹き込んでるのよ、この変態は。

SとかMとか真剣に話す六道骸の後ろ頭を思いっきりトンファーで殴りたい。



『ちょっと、勝手に話を進めないでくれる?』

「おやおや、SとMについて一緒に話をしたかったんですか」

『話したくないってば。城島君も六道骸なんて相手にしない方がいいわよ、変態がうつるから』

「クフフ…、由夜さん、その熱い視線、ドキドキしますよ」

『熱い視線じゃなくて冷たい視線を送ってることに気付いて…』

「……アヒル妹」

『……?アヒル妹って私の事?』

「らって、あのアヒルの妹だろ?」

『…雲雀よ、雲雀由夜。』

「…っと、次は移動教室です。そろそろ向かわなければ、由夜さん、犬。」

「……雲雀由夜」

『何?』

「僕は無視ですか。そうですか。…それでは、廊下で待っていますよ」

『待ってなくていいわよ、別に』

「ツンデレならば"別に待ってくれなくていいんだからね!"と言って欲しいです」

『ツンデレじゃないから』

「……」



キッと睨むと骸はこれ以上、話す事なく千種君と教室を出て行った。

ツンデレツンデレ、煩いのよ、まったく。
教科書を用意していると城島君はまた私をじーっと見つめている。



『……何?』

「意外と普通ら……」

『私は普通のつもりなんだけど。どこかおかしい?』

「普通らって言ってんだろ。おかしいのは最近の骸さんかもしんねー」

『最近?昔はそれなりに常識あった訳?』

「まぁ、今みてぇな感じじゃなかったっつーか。今の骸さんは変だびょん」

『……城島君、ついに気がついたんだ。』

「あぁ…。つ、つーか…」

『ん?』

「じょ、城島君っつーのやめろびょん」

『何で?クラスメイトだからいいじゃない、そう呼んだって』

「城島君っつーの、ムズムズするんら。犬でいいびょん」

『じゃあ…、犬君?』

「犬君じゃなくて犬!君付けやめろっつーの!痒くなるびょん!」

『…了解。それじゃ犬って呼ぶ。』

「おぅ」

『…あぁ、そういえば、犬』

「何ら?」

『六道骸を殴るなって言ってなかった?最近は止めないわね』

「オレらって少しは考えるっつーの!この間のさえ聞かなければ……」

『聞かされたって、何を?』

「そ、それは…っ」

『それは?』

「……、それを話す前に聞いて欲しい事があるびょん」

『……?』

「骸さんはー…」



おずおずと六道骸について話し出す犬。
何だ、犬とは普通に会話が出来る。
犬は多少、口は悪いくらいで、そこらの男子と変わらない。

六道骸について話した後は本題。
何を聞かされたのか犬の言葉に耳を傾ける。
その話は聞けば聞くほど不愉快で、呆れてしまった。

今すぐ殴りたい衝動を我慢して廊下で私達を待つ六道骸と千種君を見ると、あっちはあっちで何か話しているようだった



「……千種。」

「………はい」

「由夜さんと犬は何を話しているんでしょうか。この僕を差し置いて。」

「……話に混ざったらどうですか」

「混ざっていたつもりなんですけどね。あまりに僕が居た堪れない話題かつ放置プレイだったので抜けて来ました。」

「……」

「いいんです、今はまだ由夜さんが主導権を握っていても。これからの楽しみがありますし」

「……楽しみ、ですか?」

「えぇ、そうです。あれだけガードの固い絶対零度のSがその内、僕の前だけで…」

『六道骸……』

「クフフ、どうしたんですか、由夜さん。放置プレイはおしまいですか。」

『馬鹿な事は言わないで』

「どうかしましたか?」

『その…、犬から聞いたんだけど……』

「犬…!?由夜さん、どうして犬を名前で呼んでいるのですか」

『……?犬がそう呼んでいいって言ったから呼んでるの。そんな事より…』

「そんな事ではありません!いいですか、由夜さん…」

『な、何…?』



珍しく真面目な顔の六道骸。

犬の事を呼び捨てで呼ぶのが気に入らないのか。
あまりにも真剣な顔だから何を話し出すのかと言葉を待つと重い口を開いた。



「"けん"と呼ぶのであれば、どうせなら由夜さんらしく"イヌ"と呼んだ方がいいです」

「……骸様、また訳の分からない事を」

「骸さん!オレ、イヌじゃないびょん!!」

「犬は黙っていなさい。今、大事な所です。何でしたら僕が貴女のイヌになっても構いません。」

『一応、聞いてあげるけど、イヌって何の事よ…?』

「ですから犬の事を"イヌ"と呼んだら完璧です、と言っているんです」

『だから、完璧って何が?』



意味が分からず六道骸に聞き返すとクフフと笑い、流し目で見ている。

こんな時は私の苛々が最高潮になる時だと予感する。
すぐ対応が出来るようにトンファーを後ろに隠し持てば六道骸は私の予想通りの言葉を口にした。



「冷ややかな視線に、そのSっ気。」

『……で?』

「そしてイヌ、女王様への第一歩じゃないですか、クハハ…!!』

『咬み殺してあげる』

「……!!」



トンファーを思いっきり振れば六道骸に直撃。

千種君は目を瞑って、やれやれと言った表情。
犬はまるで「あーあ…」と言いたげな表情だった。

六道骸はどさりと廊下に倒れ、私を見上げている。



「……っ随分と用意がいい事で」

『嫌な予感がしたからね』

「……っ」

『それと、私をネタに変な小説を書かないでくれる?』

「犬、僕の密やかな創作活動を由夜さんにばらしましたね…!!」

「創作活動!?言ってないびょん!この前のあの話だけれすよ……っ」

「骸様、もしかして他にも…?」

「えぇ、もちろん。前回の話はシリーズの一つに過ぎません。まだまだありますよ」

「………」

「見たいなら言って下さればいいものを、クフフ…」



六道骸達を置いて一人で廊下を歩く。
この時間じゃ遅刻は確実、一限目はサボろう。

中庭で本を読もうかな。
そう思った時、先ほど犬が話した事を思い出した。



どんな骸さんでも、何があってもついて行くって決めてんら。


…骸さんはオレと柿ピーに初めて居場所をくれたんだびょん


だから、なるべくボコボコにしないれ欲しいんら。




何があったのかは聞かなかった。
だけど、城島君の表情は六道骸に本当に感謝しているんだろうと思った。

もしかしたら"感謝"という言葉では言い表せない程の救いがあったのかもしれない。
どんなになっても、何があってもついて行くなんて普通じゃないもの。

その話を聞いて今まで少し言いすぎていたから、六道骸に謝ろうかなって思ってたのに。



『……はぁ、つい殴っちゃった』



……後で謝ろう。犬に。

友達とか仲間とか私はそういうのが苦手だから分からない。
苦手だけど、誰かが大切だと思っているものを壊すような事はしたくない。



『…仲間、か』



誰もいない中庭に風が吹き抜ける。
それが少しだけ、ほんの少しだけ、いつもより寂しく感じた。

ここの所は特に、周りが煩すぎたからかな。
私はため息を吐いて本のページをめくり一人の世界に入っていった。



end



2007/03/05

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