「おやおや、千種に犬、どうしたんですか?箸が進んでいませんよ。朝の食事は大切です、きちんと食べなければ」

「……」

「…た、食べるびょん!あー…、えっと、骸さん…」

「何ですか、犬」

「今の、妄想……じゃなかった。話は……」

「クフフ、事実に基づいたストーリーです。」

「事実…?」

「えぇ。多少、捏造が入っていますが由夜さんの心情を書いてみました。」

「書…っ!?骸さんが書いたんれすか…!?」

「ちなみにタイトルは「秘密の恋、貴方に届け!」です」

「つか、骸さん、自分べた褒めしすぎだびょん……」

「何か言いました?」

「い、いえ!何でもないれす!!」



朝からテンションが異常なまでに高い骸様。
由夜との妄想ストーリーをまるで事実のように語りだして朝から何度、めんどいと思った事か。

食事中は無視をし続け、オレはいつもよりご飯を噛む回数を増やし食事を長引かせた。
めんどいし顎が痛くなってきたけれど骸様の相手をするよりも全然、マシだ。



「…と、もうこんな時間ですか、すみません、先に出ます」

「んぁ!?まだ早いれすよ、骸さん」

「遅いくらいなんですよ。いいですか、犬、偶然は自ら生み出すものです」

「何れすか、それ。難しいれす…」

「分かりませんか?今なら通学路で由夜さんとばったり出会える時間帯なんですよ」

「はぁ………」

「………ストーカー」

「千種、今、何か言いましたよね?」

「いえ、何も」

「ならばいいのですが。では、行ってきます。また後ほど。」

「行ってらっしゃいれす」

「あ…、骸様…」

「何ですか、千種」

「……これは一体、どういう目的があるんです?」

「クフフ、何のことでしょう?」

「……由夜のことです」

「……」

「本気ではないでしょう…?」

「クフフ、さすが千種ですねぇ」

「………」

「もちろん、本気ではありませんよ」



最近、久しく見ていなかった骸様の真面目な顔。
瞳は妖しく揺らいで笑みを貼り付けている。

これが本来の骸様だ。



「では、何故…」

「日々を楽しむため苦味があれば甘さも際立つものです」

「………」

「馬鹿な女共を落とすよりも僕を嫌っている女を落とす方が数倍、楽しいものです」

「……嫌われてるって自覚はあったんだ」

「何か言いました?」

「いえ、何も」

「では、行ってきますよ」



妖しいものからにっこりと胡散臭い笑顔に変える骸様。
……本当に器用な人だな。

オレは骸様の後姿を見送ると、すっかり静かになった食卓にほっとする。
落ち着いていると隣でガツガツと朝食を食べていた犬が箸を止める。

犬を見ると珍しく難しい顔をしていた。



「なぁ、柿ピー…」

「……なに」

「オレ、アヒル女の事、あんま気に入ってないんらけど…」

「……」

「骸さんを殴ったりするしよ、アヒルの妹らし…」

「………」

「それに、骸さんがあの女を追いかける意味がよく分からねぇし」

「……」

「……」

「で……?」

「今日、初めてあの女に同情した……」

「……うん」

「あんな変な妄想に付き合わされんの誰らって嫌らよな…」

「……由夜は意味のない暴力はしない」

「………」



だな、と苦笑いをしている犬はどこかショックを隠しきれていない。
骸様の変態行動と妄想を受け入れられないんだろう。

しかも女に追いかけられるならまだしも、骸様が一人の女を追いかけているんだから。


***


オレと犬が教室に着く頃、骸様はいつものように由夜に殴られてクフクフと喜んでいた。
それでも、めげずに馬鹿な事を……訂正、求愛行動をしている。



「愛情の裏返しですね!」

『違うわよ』

「そろそろ素直になってください、全て受け止めますので…!!」

『話を聞きなさい…』

「実は僕の胸に飛び込みたくて仕方ないでしょう?」

『……変態』

「……クフフ」

『……っ近づかないでよ』

「……!!」



あぁ、抱き締めようとして、また殴られている。
いつもなら犬は止めに入るのに今朝の妄想ストーリーを聞いてしまったためか足が止まっている。



「なぁ、柿ピー…」

「今度は何…?」

「思ったんらけど骸さん、ボコられてるのに何で嬉しそうなんだ?」

「……」

「それにあれくらいの攻撃、骸さんなら避けるのも防御も簡単だろ。」

「………」

「何でわざわざ当たってんだ?…って、柿ピー、聞いてんのかよ…」

「……、…この前」

「この前…?」

「由夜に見下されて罵られると、ゾクゾクするって言ってた……」

「………」

「……」



オレ達、このまま骸様についていって大丈夫なのだろうか。

犬の気持ちは口に出さずとも切なくなる程、オレに伝わった。

骸様は本当にちょっとした暇つぶしで気持ち悪いくらいに纏わりついているのか、真意はオレには分からない。



今度こそ本当にend。



end



2007/02/25

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