さっそく由夜が住むマンションにやって来ました。
しかし正面から訪問しようものなら門前払いされるのが目に見えてます。

そこで思い付いたのが、仮の姿。
この姿でベランダに舞い降り由夜が気づくのを待つというのが今回の作戦。

由夜があのバーズの小鳥、ヒバードを可愛がっているのは調査済み。

この作戦の邪魔になる雲雀恭弥は、まだ並盛中。
千種に見に行ってもらったのですから間違いありません。

つまり、今、自宅には学校から帰宅した由夜一人という訳です。



『……え』

「…!」



クフフ、さっそく気づかれてしまいました。
薄く口を開いて驚いている表情、とても可愛いらしい。



『何でフクロウがいるのよ』

「……(…)」

『フクロウって夜行性じゃないの…』



そう、何を隠そう僕は今、匣兵器のフクロウに憑依中なんです。
場違いなフクロウの登場に変なものを見るような目で見ていますがぴょこぴょことベランダを歩くと由夜は興味深く僕を見ている。

彼女は家の中でしゃがむと僕と同じ視線になった。
ちらりと横目で様子を見ると普段、僕に向ける眼差しと比べものにならないくらい優しい。

素直に喜んではいけない所ですがフクロウも悪くないですね…!

さぁ、由夜、窓を開けて家に入れてくれませんか。

そして「あれ?汚れてる…」とか言ってお風呂に入れてくれたり……と、それはフクロウでは叶わぬ夢ですね。

くっ、犬や猫に憑依すべきでした…!
馬鹿ですね、僕は何故、気づかなかったんでしょう…!!

帰り道に由夜に拾われ抱かれて家に侵入する方が色々と美味しいシチュエーションではないですか!



「……っ!!」

『…何でじたばたしてるの、変なフクロウ。怪我でもしてるの?』

「…ー…!」



ふっ、と穏やかに笑う由夜。
あぁ、やはり動物には優しいようですね…!!

彼女は窓ガラスをとんとんと指先で叩き僕の注意を引く。
窓を開けてくれるのかと正面を向き見つめると彼女の眉間に皺が寄った。



『……』

「………」



何でしょうか?何故か、じーっと見つめられています。
だるまさんが転んだ、ではないですが見つめられて、つい動きを止めてしまう。

身動きしないでいると由夜は硬く閉ざしていた口をやっと開いた。



『骸、あんた何でフクロウになってるのよ』

「……」



何故ばれた。
今更ながらホーホーとフクロウのように鳴くと由夜は呆れたように息を吐いた。



『自分でフクロウの姿、見てないでしょ、オッドアイのままよ』

「な…っ千種はそんな事、一言も言ってませんでしたよ…!?」

『……フクロウの姿でも喋れるんだ』

「く……っ何故、事前に言ってくれなかったんですか!とんだ裏切りですよ、千種…!!」

『…何となく理由は分かるけどね。ねぇ、それも憑依ってやつ?』

「えぇ、もちろん。生き物だけでなく兵器にも憑依できる人物など僕くらいでしょうね」

『兵器?』

「あぁ、由夜は一応、一般人ですから知りませんか。裏の世界で匣兵器というものがあるんですよ」

『へぇ、匣ね…。そういえば恭兄も持ってたかも』



僕の行動に耐性がついたかの如く怒ることなく普通に会話をする由夜。

話が出来て嬉しいですが窓越しっていうのがどうにも腑に落ちない。信用されてないのでしょうか。



「……、由夜、少しお邪魔してもいいですか?」

『これから夕飯を作るから無理』

「夕飯、ですか…」

『骸の分はないわよ。確かフクロウってネズミや小鳥が主食……、あ…、ヒバードを狙わないでよ』

「狙いませんよ!」

『じゃあ、何で?』

「由夜のエプロン姿を拝見させて頂くだけで構いません」

『……』



あっ、カーテンを閉められてしまいました。

くちばしでコツンコツンと窓ガラスを突いても反応はなし。

これ以上、ここにいたらトンファーが飛んで仕留められてしまいそうだ。

仕方ない。



「……」



今度は自分に幻覚をかけ僕だと気づかれないようにして、犬か猫に憑依することにします。

同じ失敗は二度と繰り返さない。

そう胸に固く誓い、羽を広げた。



『骸』

「……!どうしたんですか、由夜」

『……、入っていいわよ』

「……は?」

『…貰い物のクッキーがあるの、食べてって』



幻聴でしょうか。
目の前にはカーテンを開け、さっさと入りなさいよと招く由夜。

これは幻覚でも幻聴でもない現実。

あぁ、忘れてました。
由夜はツンデレだったという事を。

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